再海 | ナノ
宴も明け方が近づくにつれ、部屋に戻っていく人や甲板でそのまま寝てる人などが目立ち始めた。
04:聞こえない笛と出会い方
私もアルコール度数の低い果汁酒を飲んでいたけど、何杯も飲んでいれば流石に酔いが回る。火照った体を冷やそうと人気のなさそうな船尾の方へと移動した。
「・・・風が気持ちいい」
海の匂いが混じりながら全身を掠めていく風を感じ、改めてここに来た事を実感した。胸いっぱいに空気を吸い込めば次第に火照った体が冷えていくような気がした。月の光を反射してキラキラと光る海面はどこか現実味を帯びていないように幻想的で、私の住んでいた世界とは本当に違うんだと。
首にかけてあった紐を辿り服から取り出せば、親指くらいの大きさで独特な形をした笛。これを吹く機会がまたくるとは夢にも思わなかった。口に当てて息を吹き込めば、私たちには聞こえない音が鳴った。
「おい、なにしてんだ?」
「!エースさん」
背後から声が聞こえ振り向けば少しだけ頬を赤くしているエースさんが立っていた。オレンジ色のテンガロンハットがずれていたが本人が特に気にした様子もないので私も気にしないことにした。と言うよりも酔いが回ってて気づいてないのかもしれないが。
「なんだァ?それ」
「・・・笛、ですかね」
「笛?へェ、どんな音が出るんだ?」
「わかりません」
「吹いたことねェのか?」
「ありますよ。でも、私たちには聞こえないんです」
「変な笛だな」
「ふふ、そうですね」
笛を手渡せば興味深そうに見ていた。1分ぐらい経って、飽きたのか私に笛を返してきた。
「そうやァ、なんでマルコってサラの事嫌ってんだ?」
「あー・・・たぶん出会い方の問題ですね」
「どういうことだ?」
まるでおもちゃを見つけたように目を輝かせるエースさん。よく見たらそばかすが何ともキュートである。本人に言ったら怒られそうだけど。
「えーっとですね、もしもエースさんが白ひげさんと話してるときに見知らぬ女が部屋に入ってきたらどうします?」
「見知らぬ女?そりゃ、警戒するだろ」
「じゃあ、更にその見知らぬ女が白ひげさんと二人で話したいと言ったら?」
「もっと警戒するな」
「つまりそういうことなんです」
「は?どういうことだ?」
理解出来ないのかエースさんは首を傾げ、私はただ苦笑するだけだった。その会話を近くで隊長さんたちが聞いてるとは思いもしなかった。