再海 | ナノ

 
あまりよく見ないで小船に乗ったが、どうやらこれはシャンクスさん専用に足で漕ぐやつらしい。見た目が普通の小船となんら変わりないから驚いた。徐々に遠ざかる白ひげさん家こと、モビー・ディック号へ視線を移せば未だみんなは手を振っていてくれた。


41:赤髪海賊団とこんにちは


たまに少しだけ大きな波が来る以外、特に何もなく穏やかな航海。航海と言って良いのか微妙だが・・・。どれ程小船に乗っていたのか分からないが、既にモビー・ディック号は水平線へと隠れてしまっている。

「シャンクスさん、」

「ん?なんだ?」

「えっと・・・、麦わら帽子、どうしたんですか?」

「あァ、そのことか。預けたんだ」

どこか遠くを見て楽しそうに笑うシャンクスさんにそれ以上聞くのを止める。ただ、波の音だけが響いていた。シャンクスさんと特に話すこともせずにぼーっと空を眺めてたら、急に波が高くなり一瞬船から落ちるかと思った。ドキドキと心拍数が上がってるのを気づかれないように普段通りにしたつもりなのに、シャンクスさんは大きな声を出して笑った。

「・・・シャンクスさん」

「ぶはっ、もしサラが海に落ちても助けてやるよ!」

むっとして言い返そうと口を開いたら、後ろから「お頭ー!」と呼ぶ声が聞こえる。首を後ろに回しせば、船首が竜の船が来ていた。シャンクスさんの方を見れば、自慢気に「あれがおれの船だ!」と言って笑う。少し離れたところで止まった船にゆっくりと近づいていけば、縄梯子が降りていて、シャンクスさんに先に上れと促された。

「おっ、白か」

下から聞こえたシャンクスさんの声に、漸く自身の格好を気にした。そういえばスカート・・・っていうか制服着てたんだった。じろりとシャンクスさんを睨めば、サッと視線を逸らした。
縄梯子を上り終えたときに見たのは大勢の人間。そりゃそうだ、だって船の船長が帰ってくるわけだし。何か話しかけたほうが良いのだろうかと考えてはみるものの、あちらさんも困惑した表情で佇んでいた。とりあえず、シャンクスさんに何とかしてもらおう。

「お前ら、何してんだ?」

「お頭・・・。いや、その、誰っすか?」

おずおずと私を指す人。改めて周りを見てみれば何とも個性的な人が多いような気がしないでもない(両手に肉持って食べてる人とか、ドレッドヘアーの人とか)。その中で一人だけ、目が合った。腰にライフルを差して煙草を吸っていて、何より眼力が半端ない(睨まれてるからだろうけど)。

「こいつはサラ!今日から少しの間ここで世話する事にした」

「・・・お頭、もしかしてこの小娘がいつもアンタが話してる“サラ”なのか?」

「おう、そうだぞ」

先程凄い眼力で見ていた人は、シャンクスさんと話したあともう一度私に目をやった。しかし先程のように睨む感じではなくて、心底驚いているような、そんな表情。この人だけじゃなくて、周りの人たちも何か驚いているような感じがする。しかしそんなのお構いなしにシャンクスさんは「挨拶でもしたらどうだ」と笑いかける。

「サラ、です。よろしくどうぞ」

若干引きつるような笑みをして挨拶をした。しかしよろしくどうぞって・・・芸人じゃないんだからと思ったのは言った直後。

「ベン・ベックマンだ。この船の副船長をしている」

「え、副船長?」

「・・・、何か問題でもあるか?」

「いえ、大変そうだなぁと思いまして」

「そうだな。お頭がもう少ししっかりしてくれれば楽になるんだがな」

フッと笑ったベックマンさんにつられて私も微笑めば、間にシャンクスさんが立ちはだかった。何事かと思えば、肩をガシッとつかまれ「今日は宴だー!」なんて騒ぎ出した。あっという間に甲板は酒樽が転がり始め、まだ太陽が真上にすら昇ってないのに飲み始めるこの大人達の自由奔放さに呆れたのは、秘密にしておこう。
だって、好きなことをするって海賊らしいじゃん。


 

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