再海 | ナノ

 
朝目が覚めれば、いつもより少しだけ穏やかなような気がした。伸びを一つしてからベッドを降りて、着替えを済ます。時計を見れば5時をちょっと過ぎていた。


39:荷造りしましょ


「おはようございまーす」

ガチャリ、と扉を開ければ数人の目がこちらへ向き、驚いたのかさっきよりも目が見開いている。私の(といってもサッチさんから貰ったものだが)エプロンをつけて調理場に顔を出せば、サッチさんがこれでもかというほどに目をかっぴらいた。

「サラ?!どうしたんだ?」

「どうしたもなにも、雑用の手伝いですよ」

「あー・・・そうか。なら食器洗ってくれるか?こっちはほとんど終わってるからよ」

「了解です!」

袖をまくって濡れないようにしてから流しに立てば、溢れんばかりの皿が大量にあった。まあ昨日の宴の名残だという事はすぐに理解できるが、少々骨が折れそうだ。ガチャガチャと一心不乱で皿を洗っていたら思いのほか早く終わり、サッチさんに報告すればそれはもう驚愕の表情だった。ありがとな、とお礼を言われて悪い気になるわけもなく、自然と頬が緩んだ。

「そういやァ、荷造りはしたのか?」

「いえ、まだです」

「じゃあ先に準備してこいよ。後は大丈夫だからさ」

「はーい」

と返事をして部屋に帰ってきたものの、着替えを数着リュックに入れただけで終わってしまった。こっちに来た時に持っていた勉強道具なんかは使わないからここに置いていけばいいし、携帯だって既に電池切れ。私の部屋にある物と言えば残るは着替えくらいだ。そんな長旅をするつもりもないので必要最低限の物を詰めたにもかかわらず、リュックはまだ物が入りそうだった。

「・・・まあ、いっか」

リュックを掴んでベッドの上に投げればボフッと音がして、窓から差し込んでいる光のところに埃が立ったのが見える。私がこの部屋を空けたら誰か掃除してくれるかな?なんて考えていると、コンコンッとノックの音がした。

「どうぞー・・・って、イゾウさん!?」

てっきりサッチさんが朝食に呼びに来たのかと思っていたのに、扉を開けたのはイゾウさんで、驚いた私を見てイゾウさんは口元に手を当ててくつくつと笑っていた。恥ずかしくなって、咳払いを一つしたらすぐに笑いが止んで、イゾウさんは口元をゆるりと上げた。

「準備は終わったのか?」

「はい!これです」

「・・・えらい少ねェな」

「多すぎると大変ですから」

「そりゃ、そうだな。・・・サラ、これをお前さんに」

「・・・紅?」

「少しくれェは女らしくしな」

「なっ、」

「朝食の準備が出来たそうだ。早く来ると良い」

そう言うと私の頭を一撫でしてから、イゾウさんは部屋を出て行った。手に残った紅はイゾウさんが普段使っているやつよりも色が薄くて。それをリュックのポケットに入れてから、私は食堂を目指した。


 

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