再海 | ナノ
あの話から1時間もしない内に甲板では普段と同じように宴の準備がされていた。宴の準備と言っても、各々テーブルを適当に出してコックさんが作った料理が運ばれてくるのを待ってるだけ。お酒なんかは酒樽を中央に置いてそこから各自飲みたい分だけ注ぐ。料理が運ばれてくれば一瞬にして盛り上がって、海賊らしい豪快な宴のスタート。
36:飲めや歌えやドンチャン騒ぎ
私はシャンクスさんと一緒に親父さんの近くに腰を下ろしていた。お酒は飲めない(正しくは飲まない)のでナースさんの持ってきてくれたアップルジュースを少しだけ口にする。親父さんもシャンクスさんもただ何も言わずに、お酒を飲んだ。
「サラ、レイリーさんのとこに行くの本気か?」
「本気ですよ。私にとって、レイさんはいつまで経っても命の恩人なんですから」
「・・・ならよ、おれが近くまで送ってやろうか?その方が安心だろ?」
「そうですね・・親父さん、良いですか?」
「グララララ、好きにしやがれ。ただし、必ず帰って来い」
「・・・はいっ」
ニィッと効果音がつきそうな笑みをしながら、親父さんの大きな手が頭を撫でる。それがあまりに大きくて優しくて、思わず涙が滲む。ああ、いつからこんなに涙脆くなったんだろうと思いながら、親父さんの手が離れていくときに一緒に涙まで連れていかれた。
「甲板に行って来い、アホンダラァ」
そう言われて、今まで甲板に背を向けていたけどくるりと後ろを振り向けば、サッチさんと目が合う。どうして良いのか分からずに固まっているとサッチさんが笑いながらおいでと手を招いた。親父さんとシャンクスさんに行ってきますと一言伝えてから、私は甲板へと向かった。どんな顔をして何を話せば良いのかとか頭の中ではぐるぐる考えるけど、結果的に何も思いつかないままサッチさんの場所まで着いた。
「これ食ってみろよ!美味ェぜ?」
「・・・・・!美味しい」
「当たり前だろ、なんせこのサッチ様が作ったんだからな!」
笑顔で話すサッチさんはいつも通りで。嬉しくて、私も笑顔になる。ありがとうございますと呟けば、サッチさんは少しだけ目を大きくした。
「いや、おれの方こそ昼間は悪かったな、あんな態度しちまってよ」
「私はだいじょーぶですよ。むしろ避けられて当然だと思ってますから」
「・・・」
「当たり前ですよね、異世界から来て海賊王の船に乗ったことがあるなんて、本当は信じてもらえないと思ってました。でも、親父さんやサッチさんが少しでも信じてくれたのなら、それで良いんです」
「あー、多分だけどよみんな理解はしてると思うぜ?ただ少し混乱してるだけでよ」
「・・・そうですかね」
「おう。だから、きっとサラが帰ってくる頃にはみんな寂しがってるだろうから、早く帰って来いよ!」
「っ、うん」
がやがやと全員が騒いでる甲板で、この場所だけが違う空間に居るみたい。それからもサッチさんと喋っていたら、ビスタさんやハルタさん達も混ざってきて、夜通し宴は行われた。