再海 | ナノ

 
赤髪の彼はあろうことか片腕で窒息死寸前まで私を抱き締めた。それはもう、本当に窒息死するかと思ったほどに。


32:今も昔も変わらずに


そろそろ酸素が欲しくなった頃に背中を叩いてみても、逆効果とでも言うように更に強く抱き締められる。今度は拳で彼の腕を叩いてみてもピクリともせず、ただただ力一杯締め付けてきた。骨がギシギシなるのが聞こえるようだ。言葉が発せない今、能力を使うこともできずに、私の体は酸素を求める。この際相手が誰だろうと構わない。私は両手を相手の腹部目掛けて、思いっきり突き出した。

「・・・っ、ぷはぁ!」

ぜぃぜぃと肩で息をして肺に酸素を送り込めば新鮮な空気が胸一杯に溜まる。先程、彼を吹き飛ばした時にぐふっと相手の唸り声が聞こえたような気がした(確実に聞こえた)が、まあ大丈夫だろう。そうでもしなかったら私が逆に死ぬところだったし。

「サラ!大丈夫か!?」

「っ、エース、さん」

「ったくシャンクスも何してんだよ」

「・・・シャンクス?」

やっとの事で息が整ったと思えばエースさんから衝撃の一言。ちらりと先程彼を飛ばした方を見てみればゆらりと立ち上がる影。上げられた顔をよく見てみれば、それはもうびっくり。

「久しぶりだなっ、サラ!」

「シャン、クス・・さん、」

ニカッと笑うシャンクスさんは見た目こそ変わってはいるが、昔のまんまで。思わず涙が滲んできて、それを隠すように必死に下唇を噛んだ。だって、なんか恥ずかしいじゃん。

「サラとシャンクスは知り合いなのか?」

「あー、まあ、そうなりますね」

「だっはっはっ!おれはてっきり向こうに帰ってると思ってたんだがな。また会えて良かった」

「いやー、私もまたこっちに来るとは思ってませんでしたから」

「でもよォ、折角来たんだったらおれの仲間になれば良かったじゃねェか」

「仕方ないじゃないですか、親父さんの部屋に来ちゃったんですもん」

「グララララ・・!二人だけで話し進めてんじゃねェよアホンダラァ」

親父さんの言葉に反応して後ろを振り向けば、心なしかいつもより眉間にしわが寄ってる隊長さん方々が居た。特にマルコさんなんか今までに見たこともないくらいに眉間にしわを寄せて、じろりと私とシャンクスさんを睨みつけるように見ていた。これじゃ初対面の時みたいだと、少しだけ思った。ピリピリとした空気の中、再び親父さんのグラグラという笑い声が唯一の救いだった。

「もうそろそろ話しても良いだろう、なァサラ」

「・・・分かり、ました」

楽しそうに笑う親父さんと、周りのみんなとの差がありすぎて何とも言えぬ心境に陥った。そして、今一度深く深呼吸をした。さあ、どこから話しましょうか。


 

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