再海 | ナノ
頭の中では先程のサッチさんの言葉が浮かんでは消え、また浮かんでは消えていった。部屋に帰っていつの間にか取り付けてあった鏡を覗けば、確かに少しだが髪が伸びているような気がする。それに爪も。
「どういうことなの・・」
呟いた言葉はただ空気に振動を与えただけだった。
30:困った時の頼み綱
外は雨も上がって晴れていくのに対し、私の心はもやもや。洗濯物をしようとしても気づかぬ内に手が止まり、ガロンさんとエレルさんに心配される始末。大丈夫ですと笑って答えるも数分後には手が止まっていて、結局洗濯室から放り出された。
「・・・明日は、頑張ります」
「おう」
ドア越しに呟けばガロンさんが返事をくれた。洗濯室を追い出され自分の部屋で本でも読んで気分を落ち着かせようかと考えるも、どうも本を読む気になれない。
「仕方ない、報告にでも行こうかな」
ベッドから立ち上がり向かう先は親父さんの部屋。あれだ、困った時の神頼みならぬ困った時の親父さん。スタスタと廊下を迷いなく歩いて親父さんの部屋をノックするも返事なし。こっそりと部屋のドアを開けてみればそこには親父さんもナースさん達も誰も居なかった。
「親父なら甲板だぞ」
「っ!」
背後から急に聞こえた声にびくりと肩を揺らせば、くつくつと笑う声。後ろを振り返れば声の主であるイゾウさんが口元をゆるりと上げて笑っていた。
「驚かせないでください!」
「あァ、悪かったな」
「・・・そんな事思ってないくせに」
「親父に何か用があったんじゃないのか?」
「あ、そうでした」
失礼します、と言ってイゾウさんと別れ甲板へ。何というか、気配を消していきなり声をかけるのは止めてほしい。心臓に悪いし。文句をぶつぶつと心の中で言いながら甲板へ出れば、すぐに親父さんが目に入る。
「親父さん!」
「おう、サラか。どうした」
「あのちょっとお話がありまして」
「話しだァ?」
親父さんに近づけば検診中なのかナースさん達がカルテを持ちながら何かをしていた。グララララと笑った親父さんに、やっと話せると思った直後。
「親父ィー!赤髪がっ!」
切羽詰ったような船員の一言で甲板の空気ががらりと変わった。