再海 | ナノ
冬島の気候から少しずつ違う気候へと変わっていく。それはもう目まぐるしい速度で、つい30分ほど前までは綺麗に晴れていたのに今じゃ大雨警報が発令されるんじゃないかってくらいの雨。おかげで洗濯物が干せないし雨の中、わざわざ甲板に行くような人も居るわけがなく、ほとんどの船員は船内に居る。そのせいか余計に蒸し暑いような、そんな気がした。
29:ほんの僅かな変化だけれど重要な事なんです
窓には雨がザァザァと激しく打ち付けられて、普段よりも船の揺れが激しい。船内に人が集まっているために掃除もできない状況で、どこかの部屋からは賭け事でもやっているのか勝ったや負けたといった叫び声がしてくる。私はそんな声を聞きながら調理場へと歩いていた。
「サッチさん!」
「お、サラ!どうした?」
「何か手伝う事はないかなと思いまして」
「そうだなァ・・・」
片手をあごに持っていき、所謂(いわゆる)考えてる人のポーズをとるサッチさん。辺りを見回しながらうーんと唸っていたが、私もよくよく調理場を見渡せば仕込みも全て済んでいて、コックさん達も各々好きなことをしていた。
「特にねェな」
「そうですか・・・」
「暇なのか?」
「雨が降ってますからね、何もできなくて」
「じゃあおれと話そうぜ!お茶入れてくるから座ってな」
ポンポンと頭を軽く叩いてからサッチさんはお茶の準備をしに調理場へ、私は調理場になるべく近いところの食堂の椅子に腰掛ける。食堂には暇であろう船員さん達が話したり既にお酒を飲んでいたり。隅の方ではラクヨウさんとクリエルさんが“怖い話大会”と言う暇潰しをしていた。
「紅茶で良かったか?」
「あ、大丈夫です。ありがとうございます」
「気にすんなって!おれも丁度暇してたところだしな」
気が付けばテーブルの上には紅茶とクッキーが用意されていて、サッチさんは向かい側に座った。サッチさんって軽そうに見えるけど意外と気が利いたりして意外と紳士っぽいんだよね、ナンパ癖さえなければ。そんな事をこっそりと考えていたらバチリと目が合って、サッチさんが苦笑するように笑うもんだから私も引きつるような笑みをした。
「サラって妹みたいだよなァ」
「妹、ですか?」
「おう。なんなら試しにサッチお兄ちゃんとか言っても良いぞ」
「・・・」
キラキラとしたような目で見てくるサッチさんを軽く無視してクッキーに手を伸ばせば、あからさまに落胆した。だってお兄ちゃんだなんて何プレイだこのやろう。少しだけサッチさんから距離を置こうかどうしようか考えた瞬間。
「そういえばサラ、髪すこーしだけ伸びてきたな」
「・・・え?」
「そのまま伸ばすのか?まあおれはロングでもショートでもなんでも似合うと思うけどな!」
一人で喋りだすサッチさんの言葉が、耳に入ってこなくて、頭の中ではさっきの言葉が繰り返されていた。