再海 | ナノ
ログが溜まる最後の日には全船員で物資の運び込み。指示を出しているのは相変わらずマルコさんで、エースさんに至ってはマルコさんの目が届かないであろう船首の方で雪遊びをしていた。まあ雪遊びと言っても子供が遊ぶように可愛いものじゃなくて、近くに来た船員に作った雪玉を思いっきり投げつけるという危険極まりない遊びだけれども。あ、サッチさんが混ざった。
28:笑う角には福来るんだから笑えや笑え
見張り台の上からは人の動きが良く見える。難点と言えば、少々寒い事くらいでそれ以外は誰にも邪魔されない一人の空間が出来上がる。まあただ単に廊下ですれ違ったマルコさんに見張り台を任されただけなんだけど。こんなに船員がたくさん居るんだから一人くらい暇な人は居るだろうに。ほら、エースさんとか。
「はぁー、さっむ・・」
吐く息は白くて、それを見ただけでまた気温が下がったような気がした。一応手袋(これもハルタさんから借りたものだ)をしているが突き刺さるような冷たさは容赦なくて。また一つ溜め息をこぼした所で、ギシリと音がして誰かが来た事を知らせた。
「・・・、マルコさん・・」
「あー、悪かったよい」
「なにがです?」
「・・・寒かっただろい。鼻が赤ェ」
「そんなに赤いんですか、私の鼻は」
「あァ」
確かに空気を吸うとき地味に痛いけど、まさか赤くなってるなんて。しかしいつも気だるそうなマルコさんだって薄っすらと鼻の先が赤くなっている。そこでマルコさんが何かを持っているのに気がついたので聞いてみれば、思い出したようにココアを持ってきたと言われて。
「マルコさんってココア飲むんですか?」
「馬鹿、サラのだよい」
「・・・ですよねー」
もしマルコさんがココア好きとか言ったらちょっと驚くかもしれないが、まあ人の好みなんて人それぞれだし、今はそんな事よりもマルコさんがわざわざココアを持ってきてくれたことが嬉しかった。
「へへ、ありがとうございます」
「・・・よい」
コポコポと水筒からマグカップへ出てきたココアは白い湯気が立っていて、それと共にココア特有の香りが広がった。マルコさんからマグカップを手渡されてそれを口元に持っていった。先程よりもココアの香りがして、一口飲み下せば体中に熱が戻ってくるようなそんな感覚。ちらりと隣に立っているマルコさんを見てみればどこか遠くを見ているようで。注がれた最後の一口を飲み終わり、不意に聞こえた声の方を向けば明らかに狙ったであろう雪玉がこちらへ向かっていた。
「わっ、と」
思わずしゃがんで避けたけど、よくよく考えれば私の隣にはマルコさんが居たわけで。恐る恐るマルコさんを見れば、顔の半分に当たった雪玉が地面に音を立てて落ちた。
「・・・」
「ま、マルコさん・・?」
「・・・あいつら・・!」
「げっ、マルコがキレた!」
見張り台の高さなんて気にせずにマルコさんはここから飛び下りて、雪玉を投げた主犯であろうエースさんのところへ走っていた。それはもう般若のような顔つきで、マルコさんとエースさんの鬼ごっこがスタートした。
「あははっ、」
結局エースさんはマルコさんに捕まってお説教をされていた。