再海 | ナノ
食堂に入ればそこには食事の時間と言うこともあるだろうが、人、人、人。ほとんどの船員達がここに集まっているんじゃないかと思わせるほど、たくさんの人で溢れかえっていた。そして人が集まっているためか、船内の廊下よりも幾分か温かかった。
24:日本人なら日本人らしくお茶飲めお茶
どうやら奥の席が空いてるらしく、人を避けながら進んだ。席に着けば既に食事は取り分けてあったらしく、山盛りに盛られた皿と、その横には一人分くらいの食事が置かれていた。因みにサッチさんは既に食べ終わってたらしい。
「いただきます」
席に着き合掌をしている間に既にエースさんはガツガツと大量に盛られた料理を食べていた。私も食事に手をつけた。今日はハンバーグみたいなもので、ちゃんと野菜も添えられていてバランスが良さそうだなと思った。うん、流石はコックさん。味も申し分なく、あっという間に食べ終わってしまった。隣を見れば食事の途中で寝てしまったのか、フォークが空中で止まっているエースさんがいた。周りを見れば話をしたりトランプをしたり、食後のコーヒーを飲んだりと、各々の時間を過ごしていた。
「サラちゃんもコーヒー飲むかい?」
「えっと、」
どうしようかと迷っている時、視界の隅に見慣れたものが目に入った。驚いてそちらを見れば、そこに座っていたのはイゾウさんで。あぁ、だから急須と湯飲みがあるのかと納得した。そしてイゾウさんと目が合った。それはもう、漫画だったらばちりと効果音がついたかのように。
「・・・サラも飲むか?」
「あ、・・じゃあ、いただきます」
「承知した」
くすりと笑ってイゾウさんはキッチンの方へと歩いていった。すぐに帰ってきたその手には、湯飲みが一つ。コトリと音を立てて置かれた湯飲みに、すぐお茶が入れられた。緑色で温かそうな湯気がなんともいえない。
「まさか誰かと茶を飲むなんてな」
「私も同感です」
「ふっ、サラとは気が合いそうだな」
「・・・光栄ですね。あ、美味しい」
「だろう、おれの一番の気に入りだ」
「なるほど」
湯気が立っている湯飲みをもう一度傾ければ、口の中に懐かしい味が広がった。うん、日本で飲んでたのもこんなお茶だったなぁと。そうだとすれば私とイゾウさんの趣味って似たり寄ったりなのかなと思って。
「たまにはお茶も良いですねぇ」
「たまに、じゃなくて毎日飲みたいくらいなんだがな」
「それじゃすぐに無くなっちゃいますね」
「そこが難点なんだよなァ」
湯飲みの中をぼうっと見ながら、イゾウさんは苦笑した。お茶を飲んでいると、なんとなくだけど時間の流れがゆっくりになったような気がしてくるのが不思議だ。それにしても、
「イゾウさんって本当に“和”が好きなんですね」
「ん?あァ、まァな」
「何か理由があるんですか?」
「特にこれといったもんはねェよ。ただ、おれの育った場所がワノ国に近かったから、かなァ」
「ワノ国の近く、ですか」
「あァ。たまにワノ国の物が売られてたりしてな」
ある時は花札。ある時は着物。ある時は将棋。ある時はお茶。話に聞けば様々なものが売られていたらしかったが、好んで買う者は少なかったようだ。まあワノ国って凄く独特な文化だしね。
「まさかこの歳になってワノ国の文化を知ってる奴と会うなんて思ってもみなかったな。まァおれとしちゃ嬉しいんだがね」
そう言ってイゾウさんは少し照れ笑いをし、お茶を飲んだ。