再海 | ナノ
ハルタさんに無事コートを借りれた私は、先程とは打って変わって軽い足取りで船内を歩いていた。ハルタさんから借りたコートは私には少しだけ大きかったが、別に動きにくいというわけでもなく。いつかまたお礼をしなきゃなぁと思いながら、ふと窓の外を見れば、冬島が近づいてきたせいか雪が降ってきていた。
23:雪だるさんと雪うさちゃん
寒いのはあまり好きじゃない(かといって暑いのが好きなわけでもない)ので部屋で大人しく本でも読むことに。あぁ、布団にごろりと横になって一時経てばすぐに布団の中は温かくなって。もうずっと布団の中で暮らしたいと思い始めるのは仕方ない事だと私は思う。ぺらり、ぺらりと紙が捲られる音だけが響く室内。因みにこの本はマルコさんから借りたもので“海賊王の全て”というタイトルの本だった。
――ドンドンッ
「・・・!(びくっ)」
本を半分まで読み終わり、次第に布団が気持ちよくなって寝かけていた時だった。部屋のドアが力強く叩かれ、そして声がした。
「サラ!雪だ、雪!外に出て来いよっ」
声色からしてテンション高めのエースさん。のそのそと布団から出てドアを開ければひゅうっと風が入ってきて思わず身を縮めた。ちらりとエースさんを見ればいつもと違いコートを着ているが、ズボンはハーフパンツのまま。見てる私が寒くなるような格好に、思わず眉をひそめた。
「なァ、遊ぼうぜ!どうせ暇だろ?」
「いや、あの・・・寒いんで遠慮します」
「そんな事言うなって!行こうぜ!」
にっこにっこと笑うエースさんを尻目にドアを閉めようとしたら、エースさんの足がちゃっかりドアの隙間に入り込んでいて閉めれない。どこのセールスマンだ。
「・・・はぁ。わかりましたよ、ちょっと待っててください」
「おう!・・・ん?本読んでたのか?」
今回は私が折れて、結局外で遊ぶ事になった。コートを部屋に取りに戻ると、エースさんは私のベッドの上に置かれた本が目に止まったらしくスタスタと私の許可なしに部屋に入ってきた。
「・・・海賊王の、全て?」
「ん。マルコさんが持ってたの借りました」
少しだけエースさんが無表情になったような気がしたが、すぐにその本をベッドの上に投げて。もう一度顔を見てみれば普段と変わらない笑顔で、早く行こうぜと急かした。
甲板に出れば既に辺りは雪景色。甲板の木が見えないほどに積もった雪で、何人かは雪かきをしたり遊んだりと大忙しだ。
「さっむ・・・!」
「そうかァ?」
「・・・エースさんは炎人間だからわからないんですよ!」
「ははっ、まァいいじゃねェか!それより雪だるさん作るぞ!」
グッとコートの袖を上げてやる気満々のエースさん。そのやる気は一体どこから出てくるのか・・・。疑問に思っているも、エースさん自身が炎のせいか雪を持てばすぐに溶けていってしまいそうで。そんなエースさんを見ながら、私もなにを作ろうかと頭を回転させた。
どれくらいの時間が経ったのか。次第に辺りは暗くなり始めていて。ちらりとエースさんの方を見れば、でかでかと大きな雪だるまが作られていた。
「おっきいですね」
「まァな!これくらい余裕だっての。サラはなに作ったんだ?」
「えっと、これです」
「・・・ウサギか?」
「そのつもりです」
「ちっけェな!サラみてェ」
「失礼な!」
私が作った雪うさぎは手のひらにちょこんと乗るくらいの大きさで。確かにエースさんが作った雪だるまからしてみれば小さいかもしれないが、なんとなくカチンときた。確かに私はこの世界を基準で考えれば小さい(でもこれでも平均並の身長だ)かもしれないが。
「おーい!飯だぞー!」
ガチャリと船内に続くドアが開いて、そこから顔を出したのはサッチさんで。さっみィと言いながら私たちのところへと寄ってきた。
「飯か!早く行こうぜ!」
「あ、はい」
エースさんが作った雪だるさん(エース命名)の隣にそっと私が作った・・・雪うさちゃんを置いて、一人満足気に微笑んだ。
「お、可愛いな」
「!サッチさん、」
「この雪ウサギはサラちゃんが?」
「はい」
「器用なもんだなァ」
「ありがとうございます」
「さ、早く中に入ろう。鼻が真っ赤だぜ?」
「!」
自分では気づかなかったがどうやら私の鼻は真っ赤に染まっているらしく、サッチさんがくつくつと笑った。入り口からはエースさんが呼ぶ声が聞こえた。