再海 | ナノ

 
その後ハクはすぐに空へ戻って行き、未だに呆気に取られているみんなと私が残った。何から説明しようかと思案していたら、少し離れた甲板からグララララと親父さんの笑い声が聞こえてきた。あぁ、そういえば親父さんは知ってたんだっけ。


22:ぽかぽかするのはどうしてか


「てめェら、さっさと上陸準備しやがれ。もうすぐ島につくぞ」

親父さんの一言に、甲板から進行先を見てみればまだ米粒くらいの大きさだけれども肉眼で確認できるほどに島は近くなっていた。なるほど、寒いわけだ。ぶるりと身を震わせ、私はコートを借りるべくリジーさんのところへ行こうとした。しかしその前にエースさんが立ちはだかった。

「なァ、あの龍の背中に乗れるのか?!」

爛々と目を輝かせてそれはもう楽しみだというように。周りのみんなは親父さんの言葉でぞろぞろと上陸をする為の準備に取り掛かっている。どうなんだと聞いてくるエースさんに苦笑しながらも無理ですよと返した。

「えぇーっ!なんでだよ!」

「龍って、結構狙われるんですよね。だからあまり下には降りてきたくないみたいなんです」

「狙われる?」

「はい。大きい的になりますし、龍の骨には不老不死の薬ができるとか言う迷信もありますから」

「そうなのか?」

「だから彼らは雲を味方につけた」

「・・・?」

「さっきの雲もハクが連れてきたんです、身を隠す為に」

「あァ!なるほど!」

「まぁ一度頼んでみたら良いですよ」

「おう!楽しみだなァ」

ニコニコと笑いながらエースさんは上陸の準備へと向かった。私も急いでリジーさんのところへ走った。だって寒いんだもん。



「えっ、ないんですか!?」

「ごめんなさいね」

「いえ、私の方こそすみません!」

申し訳なさそうに笑うリジーさんにこれでもかと言うほど手を横に振った。さて、どうしよう。医務室を出てとぼとぼと両腕をさすりながら船内を練り歩く。しかしすれ違う人誰もが私より背が高くて大きい。流石に大きすぎるのを着て引きずったりするわけにもいかず、私は途方にくれていた。

「あれ?サラ、何してるの?」

「・・・ハルタさん!」

「寒くないわけ?そんな格好して」

「ハルタさん、お願いがあります」

「ん?なに?」

「私にコートを一つ貸していただけませんか・・・!」

島に近づいている為か、船内も徐々に寒くなってきて気を抜くとカチカチと歯が震えた。そんな私の様子を見て、ハルタさんは一度きょとんとしたがすぐにくつくつと笑い出した。

「くくっ・・、良いよ。そんなの誰にでも言えば良かったのに」

「いやぁ、みなさん大きすぎて私には合わないかなと」

「なるほど。それでおれってわけか。部屋にあるから・・ついて来る?」

「そうします」

なるべく早くこの寒さから抜け出したかった私は、即答した。だってここで待っててハルタさんが持ってきてくれるのを待ってるのは寒いし、何よりハルタさんにだって面倒なはず。ハルタさんはにこりと笑ってから歩き出した。

「・・くしゅんっ」

「あ、寒い?」

「あー、平気です」

本音を言えばもの凄く寒い。が、これ以上迷惑をかけるわけにもいかない。

「はい、これで寒くないでしょ」

「え、」

パサリと肩にかけられたのは先程までハルタさんが着ていたコートで。返しますとコートに手をかけたら、ハルタさんはくすくすと笑って。

「こういうときは遠慮なく家族に甘えるもんだよ」

優しく微笑んだハルタさんに、私は少しだけ世界が滲んだ。


 

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