再海 | ナノ

 
3日というのは早いもので、今日は朝から甲板は大勢の人が動き回っていた。次の島までの物資や食料を運んだりと、マルコさんはその全体の指揮を執り、他の隊長さんたちも各隊に指示を出していた。私も雑用だからと甲板に出てきたのはいいが、女だからかどこへ行っても邪魔扱いされて今は甲板の隅っこでみんなの動きを見ているだけだった。そんな時船内からナース長のリジーさんが出てきて、私を見つけ顔を明るくしながら近寄ってきた。


16:人を見た目で判断したらいけません


ブロンドのふわふわした長い髪と綺麗な碧眼。ナース服からすらりと伸びている足にはヒョウ柄(だと思われる)が見える。でも表情はどこか影が差しているように見えた。

「どうかしたんですか?」

「サラ・・・お願いがあるのだけれど、」

「私に出来ることならしますよ?」

「あのね、一緒に島を降りてほしいの・・・男の格好をして」

「・・・はい?」

「実は・・・」


リジーさんの話をまとめれば、昨日島に医療品を買いに行こうと島へナースさんたちみんなで降りたらしく、そこでたまたま道を聞いたオッサンに好かれてしまったと。ナースさんたちも顔が割れてるので危険に晒したくない、でも一人で行くのは怖いと。そこで私に男装をして彼氏役をしてほしいとの事で。話している途中、リジーさんは昨日の事を思い出したのか時々顔を青くしていた。

「・・・お願いできるかしら?」

「任せてください!」

トンッと自身の胸を叩けばリジーさんは頼もしいわと笑った。急いで部屋に戻りジーンズにシャツというラフな格好をし、胸にはサラシをしてなるべく目立たないようにし(ナースさんたちに比べれば普段から目立たない方だけど)、鏡の前に立てば多少弱そうだが男に見えなくもない。

「意外と似合ってる・・・かな」

鏡の前で全身を確認してから、部屋を出て甲板へ向かった。甲板へ出れば未だに倉庫へ物資を運び入れていて、そういえば午後出航だったことを思い出した。

「・・・サラちゃん?」

「あ、サッチさん」

「なんでそんな格好してんだ?」

「これからリジーさんと買出しに出かけるのでボディガード兼彼氏役です」

「リジーとデート!?なんて羨ましい奴・・!」

「出航までには帰るようにするので親父さんに伝えといてください」

「・・・化けるもんだなァ」

サッチさんがぼそりと呟いたが気にせず船を降りた。既にリジーさんが私服に着替え終わって待っていたようで、私を一目見て驚いていたようだけれどすぐにいつものように微笑んでくれた。

「それじゃ、行きましょうか」

「はい。じゃあエスコートしますよ」

「ふふ、紳士なのね」

「女性は大切にと教えられましたから」

「あら、誰に?ご両親?」

「金髪の、命の恩人にです」

伸びている草などを踏み潰し、リジーさんが通りやすいように歩きながら町へ向かった。午後には出航すると言ってたから急いで買い物を済ませて船に戻らないと・・・。森の中をずんずんと進んでいると、急に近くの木がガサリと揺れ、何かが落ちてきた。否、降りてきた。

「待っていましたよ!」

「きゃっ・・!」

現れたのは私ほどではないが男にしては弱そうな男。丁度リジーさんとの間に入ってきて、彼女の手首をがっちりと掴んでいた。

「てめェ、リジーさんに触ってんじゃねェよ」

「あ?・・・なんだ、コイツ」

「リジーさん嫌がってんだろ、離せよ」

「何言ってるんだ。彼女と僕は結ばれる運命にあるんだ!お前なんかが入ってくるな!」

「わぁ、なんておめでたい頭なんでしょう。とりあえず“手を離せ”」

「!?」

能力を使えば男の意思なんてなかったかのようにリジーさんから手が離れた。その隙にリジーさんはさっと私の後ろに隠れこんだ(流石というかなんというか・・)。それが更に男の逆鱗に触れたのか、懐から果物ナイフらしきものを出して震える手で私に向けた。

「お前なんか簡単に殺せるんだぞ!」

「へぇ、そうなんだ」

「死ねェ!」

手を大きく振り上げながら走ってきた男。私は昨日買った鵺(ぬえ)をホルスターから素早く取り出し、果物ナイフの刃を狙って撃った。バンッと銃声の音が森の中に響き、数秒後にナイフの刃が地面に落ちた。

「う、うわぁああ!!」

男はガクガクと足を震えさせながら全力でどこかへ走って逃げた。途中木にぶつかっていたが。その後すぐに銃声を聞いたサッチさんとマルコさんが駆けつけた。

「サラ、ありがとう!」

「リジーさんのためならこれくらい安いですよ」

「・・・すっかり男になってやがる・・」

「・・・よい」

「マルコ隊長、サッチ隊長、折角来て頂いたので荷物持ちしてくださらない?」

「「・・・」」

「ね?」

「・・・はい(よい)」

にこりと笑うリジーさん。だが背後には吹雪が吹いてるようだった。4人で薬屋まで向かい、必要な医薬品を買えば私とリジーさんでは持てないほどの量。最終的にマルコさんとサッチさん2人が全部持たされて船に戻った。


 

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