再海 | ナノ
見つめ合う(目が離せないだけ)こと数分、その人は私の荷物を持っていない方の手を引いて、突然歩き始めました。
13:世界最強と謳われる彼は
無言で手を引かれ、やっと着いた先は町に来るまでに通った森の中だった。ちょっと密会みたいだな。
「して、なぜここに居る?」
「・・・一度は、帰りましたよ」
「再び来たと、そういうことか」
「はい。私もまさか二回も来るとは思いませんでした」
「だろうな。今はどこに居る?」
「・・・白ひげさんのところに」
「!そうか。赤髪のことは知っているのか?」
「赤髪・・・?」
「知らぬならそれでいい。白ひげの船に乗っていればいずれ会うだろう」
くつくつと笑う彼はどこか楽しそうだった。森の木が揺れ、町の方から12時を告げる鐘が島全体に鳴り響いてきた。午前中で買い物を終わらせたいという私の願望は叶わず、仕舞いにはなぜか彼と昼食を共にするという事になった。
「サラは昔と変わらんな」
「ミホークさんはおじさんになりましたね」
「あれから何年経ったと思っている」
こじんまりとしたレストランで、食後の一時。ミホークさんはブラックのコーヒーを飲んで、私はカフェオレを飲んでいる。店内にいるお客の数はそこそこで、奥に座る私たちには誰も見向きもしない。
「ミホークさんの夢は、叶いましたか?」
「・・・そうだな」
「世界最強の剣士にって、そう言ってましたね」
「主は記憶力が良いな」
「別に記憶力の問題じゃないですよ。私は楽しみにしてた、それだけです」
にこりと笑いながら言えば少しだけ目を大きくし、すぐに微笑んだ(よく見てないと分からない変化だが)。それから会計をしようとお金を出せば奢るとだけ言ってミホークさんがさっさとお金を払ってしまった。店の外に出れば春島の気候の特徴か、ぽかぽかと暖かな風が吹き抜けた。
「おれはもう行く」
「!そうですか・・。あまり無茶しないでくださいね」
「・・・サラも気をつけてな」
頭をぽんぽんっと軽く叩いてから、ミホークさんはくるりと方向転換し人混みに紛れて姿を消していった。相変わらずと言うか、何と言うか。
「お兄ちゃんみたい・・・、」
ぽつりと呟いた言葉は誰に届くわけでもなく、風にかき消されていった。