再海 | ナノ
眼前には気味悪く笑う敵が一人、背後には青い顔をしたお姉さま方。その間に立つのが、私。お姉さま方が早くこっちへなんて叫んでいるが、私にはマルコさんからお姉さま方に怪我をさせるなと言われたばかりである。
09:誰かを傷つける為じゃなく大切な人を守る為に
甲板からは声と銃声の音が聞こえる。白ひげ海賊団ともあろうものがみすみすと船内に敵を入れるなんて考えてもなかった。まあこのことはあとで白ひげさんに報告すればいいか。今考えなくちゃいけないのは、この男。見るからに不潔そうで正直同じ空気も吸いたくない。私が眉を寄せていたのを恐怖からかと思ったのか、男はニタニタと笑いながら私を通り過ぎ、お姉さま方に近づこうとしていた。
「大人しくしてれば命は助けてやるよ」
「っ・・・サラちゃん、早く逃げて!」
お姉さまの一人が青い顔をしながら叫んだ。だから青い顔しながら言われても・・・。
「静かにしろ!殺すぞ!」
「きゃぁっ」
「・・・はぁ。おい、おっさん」
「あ゙ぁ?」
「サラちゃんっ」
「お前の相手は私だ。お姉さま方に手を出す事は私が許さない」
「ヒッヒッヒッ、ガキのお前に何ができる!」
「お前に勝てる」
「っこのクソガキィ!」
にやりと笑えば男は顔を真っ赤にして怒り、お姉さま方に向かっていた足を私のほうへ向けた。サーベルを振り回しながら走ってきた男の下へとしゃがみ込み、そこにあった木のイスで力一杯サーベルを持っている手を狙った。サーベルは空を数回ほど回転し、入り口の近くへと突き刺さった。さらに追い討ちをかけようと男の片足を蹴りバランスを崩させたところで、近くに置いてあったメスをのど元へ添えた。
「形成逆転、だね」
「っ!」
「さて、これから大人しく甲板へ私と向かってもらいます。“異論と抵抗は認めない”」
「・・・わかった」
「よろしい。それじゃ、お姉さま方はここから出ないでね」
「そんなっ」
「甲板は今危険よ!」
「へーきへーき。それじゃ」
片手を挙げながら医務室を出れば甲板は未だに騒がしく、敵が来てから結構時間が経ってる気がしたので少しだけ不安になりつつ甲板へ続く道を歩いた。近づくにつれ銃声やら金属がぶつかる音が聞こえてきた。ドアを開けて一番に目に入ったのは、相手の船長であろう人物が嫌な笑みを浮かべながら戦況を見ている姿だった。
「船長っ」
「あァ?なんだ、そのガキは」
「え?・・・あれ?」
「サラ!?」
「あ、ビスタさんにジョズさん」
「なんでこんな所に居るんだ!早く船内に戻れ!」
もの凄くあわてた様子のビスタさんとジョズさん。大丈夫です、と言おうとした時、私に向けて火の銃弾が飛んできた。
「!!」
間一髪で避けたものの、火の銃弾を撃てる人なんて限られてくるわけで。バッと周りを見ればエースさんの中心に白ひげの仲間が各々武器を手に苦い顔をしていた。
「ガハハハハッ!おれはアヤアヤの実の能力者、女ァお前もいい道具になりそうだ」
いつの間にか敵の船長が近くに居て、遠目から見るよりも更に不細工で気持ちが悪くなった。アヤアヤの実って言うのは聞いたことないけど、おそらく操作系の能力なのかなと推測してみる。だって現にエースさんが仲間に攻撃してるし。
「・・・“私は誰にも囚われない”」
「操作人形(マリオネット)!」
「・・・ざぁんねんでした。私には効果ありません」
「んなっ?!」
「あ、刀借ります」
目を大きく開き驚いている相手を横目に近くに居た仲間の人から刀を借りた。まあ借りたと言っても軽く強引に借りたんだけど。
「さて・・・自己紹介でもします?」
「テッメェ!」
「コトコトの実の能力者、言葉遊びのサラと申します」
「こ、コトコトの実だァ?聞いたこともねェよ!」
「そりゃそうでしょう。悪魔の実図鑑にも載ってませんから」
「ッ、」
「それでは、さようなら」
にこりと微笑めばさっきのお姉さま方よりも更に顔を青くし、最早青を通り越して土色に変化していた。刀を両手で握りなおし、改めて相手へと振り下ろした。