逃走少女 | ナノ


「・・・」

「・・・」

カリンもエースも口を開くことなく、ただ沈黙だけが続く。そんな時間がどれくらい経ったのか、はたまたまだ数分も経ってないのか。お互い何も喋ろうとしなかった空気が少しだけ揺れて、次第にカリンが喋りだす。

「・・・ご、めん、」

「な、んで、カリンが謝るんだよ」

「だって、今まで言わなかった。・・・私が、天竜人だって」

「・・・」

「天竜人となんか、関わりたくないもんね。仕方ないのは分かってるけど、さ・・・騙してて、ごめん」

「っ、」

頭を下げるカリンに、複雑そうに顔を歪めるエース。さっきまで近くで聞こえていた木々のざわめきも、今ではどこか遠くのように聞こえる。そんな中、顔を上げたカリンがどこか苦しそうに笑っているのを見て、エースは無意識の内にカリンを抱き締めた。

「・・・火拳、くん?」

「・・・・・・カリンは、カリンだろ」

「え?」

「・・・天竜人とか、そんなん関係ねェよ!カリンはカリンだろっ!」

「〜〜っ、うん、」

先程よりもエースの腕の力が強められて、カリンはエースの腕の中で泣き出した。今までの感情をぶつけるように、声を上げて。




一頻り泣いたあと、お互いの顔を見れば何がおかしいというわけでもないが、笑う。

「なァカリン」

「何かな、火拳くん?」

「やっぱおれの仲間にならねェか?」

「!・・・ごめん」

「・・・そっか」

どこかシュンとした雰囲気をまとったエースを見ながら苦笑するカリン。今なら垂れた犬耳とかが見えそうだ、なんてのん気に考えながら、ゆっくりとエースの手を握る。

「今はまだ、ごめん」

「今は、ってことは」

「ちゃんとケジメ、つけなきゃだよね!」

「じゃあ、それが終わったら仲間になってくれんのか?!」

「どうだろ。気が向いたらね」

「おう!あ、それとちゃんとおれの名前呼べよな!」

ブンブンと千切れそうなくらい尻尾を振っている(ように見える)エース。満面の笑みを浮かべながら「カリンは絶対おれの隊な!」などと既に話を進めていて、それに苦笑しながらカリンはエースの手をバレないように離し、ゆっくりと後退する。あと一歩でも踏み出せば崖から落ちそうなくらいの場所にカリンが立った時、漸くエースが気がついた。

「カリン?!」

「またね、火拳くん!」

崖から飛び降りるような体勢でエースの視界からカリンは消えた。エースは急いで崖の下の方を覗き見れば、小さな小船に乗っているカリンの姿が。

「カリンー!」

「いつかまた、私を捕まえられたら!」

振り返って悪戯が成功したような笑顔を見せて、

「その時は名前を呼んで、火拳くんの部下になってあげるよ!それじゃあ、」

ばいばい、と手を振ってカリンは逃走した。

逃走少女、逃走


 

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