逃走少女 | ナノ
「おっはよー、火拳くん!」
「おう、おはよう」
朝、船を降りて町へと続く道(と言ってもほとんどが木で道という道はないが)を進んでいると、近くの木がガサガサと揺れたと思ったらカリンがひょっこりと現れて何食わぬ顔で挨拶。まだ2日しか会ってないのにそれが普通の事のように思えて仕方がねェ。カリンの頭についた葉っぱを取ってやれば眼を細めて嬉しそうに笑う。
「今日はどこに行くの?私はね、あっちの小さい丘に行ってみたい」
「・・・どこ行くのって、カリンがもう決めてんじゃねェか」
「私は私の意見を言ったに過ぎないよ。火拳くんはどこか行きたいところある?」
「ねェ、な」
「じゃあ決まりっ!行くよ、火拳くん!」
グイッと腕を引かれ思わず転びそうになるものの、何とかバランスを保ち走り出したカリンに続く。最初こそおれが手を引かれてる感じだったのに、今じゃ隣に並んで走ってる。町に着いたら路地裏の方を走り抜けて、今度は丘へ続くであろう小さな道を二人で走る。別に歩いてもいいけど、カリンが走るのを止めないからおれも走り続ける。丘に着けば誰も居なくて、足を止めたら今まで走っていた分の疲労が一気に来たような気がする。
「へへ、一度こうやって寝転がりたかったんだよねー」
「お前汚れるとか気にしねェのか?」
「ん。だって汚れるの嫌なんて言う性格でもないし」
「確かにな」
「あー、気持ちー」
ごろごろと寝転がるカリンを鼻で笑ったら、むっとしたような顔で睨まれる。でもそれも長く続かなくて、どちらからともなく大きな声を出して笑った。カリンが笑いすぎて咽て、おかしくてまた爆笑したら今度はおれが咽た。もちろんカリンには「ざまーみろ」と笑われた。他愛もない事を話したりしながら、時間だけが過ぎていく。
「カリン様っ!」
丘に現れたのは先日蹴飛ばした男達。自分の眉間にしわが寄るのが嫌でも分かる。隣で座っていたカリンを見れば、おれと同じように眉間にしわを寄せていた。この男達とカリンがどういう関係にあるか知らねェが・・・。じろりと男達を睨めば少し怯んだように片足だけ後ずさる。
「なんか用か?」
「・・・火拳のエース、貴様には用はない。用があるのは、後ろにいらっしゃるカリン様だ」
「私は用なんかないわ。帰りなさい」
「そういうわけにはいきません。あなたは、」
「っ、うるさい!それ以上喋るな!」
今にも男達に飛び掛りそうなカリンを押さえると、後ろの男達が笑ったような気がした。男達を睨んでも先程と同じような効果はなく、男達は勝手に喋りだした。
「カリン様、あなたは」
「〜〜っ、」
「“天竜人”なんですから」
その瞬間、男達は“火拳”を喰らった。
逃走少女、秘密