逃走少女 | ナノ
飯屋に入ってカウンターに座ればメニューが持ってこられる。エースはそれを全部二人前ずつ注文すれば、メニューを持ってきた女だけでなくカリンまで目を大きく開いて驚いていた。
「火拳くん、そんなに食べるの?」
「おう!」
ニカッと笑うエースとは対照的に引きつった笑みを浮かべるカリン。そうこうしている内に料理は次々と運ばれ、全て出来たての状態でエースの胃袋へと消えていく。そんなエースを横目で見ながらカリンは先程頼んだピラフをスプーンで口一杯に頬張り美味しそうに食べていた。またスプーンでピラフを掬い、口へ運ぼうとした時にガチャンッと音がしたので隣を見れば、エースが皿の中に顔を突っ込んでいる。
「・・・火拳くん?おーい、火拳くーん!」
カリンがスプーンを置いてエースの肩を揺らしてみるものの、ピクリとも動かない。もしかしてこの料理に毒が・・・?なんて考えてみるものの、カリンもエースと同じものを食べているためその可能性は低い、だろう。じゃあ、持病・・・?と考えていたら、「ふがっ・・・」と言う声と共にエースが起き上がる。
「・・・寝てた」
「寝てたのかよ!食事中だよ!」
「いやァ、悪ィ悪ィ。癖なんだ」
「火拳くんって変な癖持ってんのね。直した方がいいんじゃない?」
「まァ・・・今まで何もなかったから平気だろ」
ビシリと鋭いツッコミのカリンを適当にあしらいながらエースはまた食事を再開したかと思ったら、再び皿へと顔面ダイブした。今度は先程盛られていた料理がエースの口の中に収まっているので皿の上に料理はないが、エースの頬はリスのようにぽっこりとしている。手にはフォークを握ったまま、食べる状態で止まっている。さっき説明されたばかりだから特に焦りはしないが、心臓に悪いとカリンは思った。
「・・・んがっ」
「おはよう、火拳くん。私もう食べ終わったんだけど」
「なにっ?!もう少し待ってくれ!」
「うん、待つから。普通に待つからさ、食べ物口に入れたまま喋んないでよ」
カリンの言葉を理解したのかしていないのか、エースはまた口に食べ物が入ったまま「悪ィ!」と謝った。そのせいでカリンに届くか届かないかぐらいの位置にはエースの食べかすが散らかっている。エースの食事が終わるまで、また何度か睡眠もあったが30分もしない内にエースは店の料理を全て食べきった。
「いくら?」
「285,600ベリーになります」
「これで足りるよね?お釣りいらないから」
「え、お客様?!」
「カリン、ツリ要らないのか?」
「ん、早く出よう」
エースが会計を済ませた場所で止まっていたが、カリンが店の外に出たことでゆっくりとその後を追って店を出る。後ろで店員が何か言っているようだったが、本人が要らないというのなら要らないのだろう。オレンジ色に光っていた町並みも今は暗くなっていて、そこをゆっくりとした歩調で歩くカリンとエース。すれ違う人の顔は既に見えなくて、夜が来たんだと実感する。
「なァカリン」
「ん?何かね、火拳くん」
「仲間に、ならねェか?」
「・・・私に、海賊になれと?」
「まァ・・・そうだな」
「そうだねぇ・・・」
「絶対楽しいって!な?」
そう言って覗き込んだカリンの顔が、本当に困っているように笑っていて、何かとても悪い事をしてしまったような罪悪感に苛まれた。
逃走少女、困惑