逃走少女 | ナノ
どこにでもあるような大きくもない普通の島。ただ、この島は産業が結構発展してるらしく、町ではなく国。島全体が一つの国みたいになっている。
綺麗な町並みがオレンジ色になって、遠くの空では空が黒くなる時間帯。すれ違う人の顔ははっきりと見えないが、完全に見えないというわけでもない。ぼんやりと歩いていると腹の虫が鳴る。
「・・・どっかに飯屋ねェかな」
いつもかぶっているオレンジ色のテンガロンハットをクイッと上に上げて少し遠くの空が見えるようにすれば、建物の間に黒い影を見つけた。その影は次々と屋根の上を飛び移り、どこかへ行こうとしている。普段ならそんな事気にせずに飯屋を探すのだが、何故だか無性に気になってその影を追った。
どこまで走るつもりなのか知らないが、ちょこまかと素早い。しかも下から追っているので顔を上げて走らなければならなくて、何度か人にぶつかった。それでも視界から外すことなく追いかけていると、やっと屋根の上を走ってる奴の近くまで追いついた。近くに来てやっと分かったのは、そいつが女だってこと。白いワンピースに黒い髪をなびかせて、走るたびにふわりと舞い上がる。
「待てェ!」
おれが走ってる後ろから聞こえた声に振り返れば、スーツを着た男が数人。視線は屋根の上を走る少女だ。
「女の子一人相手に寄って集ってとは、感心しねェなァ」
「誰だ、貴様!」
「そんな奴ほっとけ!早く捕まえるぞ」
下を走っていた奴らは走るのを止めたが、どうやら一人屋根の上を走ってるらしい。
「おい、こいつ白ひげんとこの火拳じゃねェか?!」
「おっ、親父を知ってんのか。嬉しいねェ」
「チィッ・・・何が目的だ」
「別に何も。ただ、男が女の子一人相手にこの数たァ情けねェな」
「・・・殺るぞ」
どの男が言ったかは知らないが、そんな一言でサーベルを手にする男達。構えたと同時に一斉におれ目掛けてサーベルを振り上げる者も居れば、突き刺すようにする者も居る。
「ウラァ!」
「よっと、」
襲い掛かってくる男達の攻撃を避けながら相手に一撃を入れていく。立ち上がれなくなった男達をまとめて丁度家の所に置いてあった縄でぐるぐるに縛り付けた。
「さてと・・・見失っちまったなァ」
「いやぁ助かったよ!」
「うぉっ?!」
急に後ろからまだ幼さの残る声が聞こえた。驚きながらも振り返れば、先程まで屋根の上を軽々と走り回っていた少女。周りは暗くなり始めてるが、丁度何かの店の前なのか、建物の中からほんのりと光が当たり少女の白い肌が更に際立つ。
「ありがとね、火拳くん!」
「火拳って・・・おれはエースだ。ポートガス・D・エース」
「まぁまぁ細かい事は気にしないって事で。なにかお礼しなきゃね。何が良い?」
「いや、別に」
要らねェと続くはずだった言葉は、おれの腹の虫が盛大に鳴ったせいで飲み込まれた。
「あはは、正直な胃袋だね!じゃあ飯屋にでも行こうか!」
「悪ィな」
「いえいえ、お互い様です」
ニッと笑う少女につられて、おれも笑った。
「そういえばお前、名前は?」
「カリンだよ。火拳くんには特別にカリンちゃんと呼ぶことを許そう!」
「嬉しくねェー」
「なんだとう!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら近くの飯屋に入った。なんとなくだけど、カリンと一緒に居るのは嫌いじゃないと思った。
逃走少女、出現