toi et moi | ナノ
朝起きたままのジャージでテレビを見ていたら、家の呼び鈴がなる音。休日に一体誰だよと思いながら、両親はテレビに夢中なので私は玄関へ向かう。ガチャリとドアを開けて目に入ったのは私服姿のマルコ。
「今日、店休みだろい?」
そうマルコが言ったから「うん」と返事をすれば、にんまりと笑った。地味に恐怖心を煽るような表情だ、と思ったが絶対に口に出さない。
「じゃあ出かける準備しろい。目一杯おしゃれしてな」
「どこか連れてってくれるの?!」
「・・・まァ、そんなもんだよい」
ゆるりと首筋に手を当てながら喋るマルコの服装を見れば、もう準備は出来ているようで、とりあえずリビングに待ってもらい私は自室へと階段を駆け上がる。マルコから遊びに誘われるのは初めてじゃないし、彼氏彼女って感じじゃなくて兄妹みたいな、そんな感じ。だからいつも適当に服を選ぶのだが、何故か今日のマルコはおしゃれをしろと言ってきた。・・・なんでだろ。待たせるのも悪いと思って、タンスの中から着替えを選んで、普段は滅多にしない化粧なんかもしてみたりして。全身鏡で確認してから、マルコが待っているリビングに行く。
「準備終わったよー」
「おう、って・・・相変わらず化けるな」
「失礼だな!」
いつも眠そうな目を少しだけ大きく開いているマルコ。ちらりと母を見れば笑顔で「マルコくんとデート?」なんて聞いてくるのをスルーして、玄関に向かう。
目的地を告げることなく歩く。私もゾロくんほど方向音痴でもないから、なんとなくだけどマルコの行き先が分かってくる。というか、商店街には若者達が遊ぶような場所はないから、大抵遊びに行くと言えば駅前になる。黙々と歩くマルコの少し後ろを歩いていると、不意にマルコの足が止まった。どうしたのかと思ったその時、最近よく耳にする声が聞こえてきた。
「マルコ!」
「よう、エース」
マルコの後ろからひょっこりと顔を出せば、ルフィくんとエース先輩の姿。制服を着てるときよりか、なんかかっこいいかもしれない。そんな事をぼうっと考えてたら、エース先輩と目が合った。
「・・・マルコの彼女か?」
「馬鹿言うんじゃねェよい!・・・わからねェのか?」
「・・・?おれの知り合いか?」
「くくっ、化粧一つで誰か分からなくさせるなんてのは、やっぱお前ェくらいだよい」
「・・・マルコのばーか!エース先輩、私です、シュリですっ」
「・・・はァ!?」
名前を名乗れば心底驚いた顔をするエース先輩とルフィくん。そんなに私だって分からないのか・・・凄くショックだ。ずーん、と効果音がつきそうな程暗くなりそうな私にエース先輩がもの凄く慌てて、手を無意味に動かしている。
「いや、まさかこんなに可愛くなるなんて思ってなくてよ・・!」
「・・・可愛い?」
「お、おう」
「っ、ありがとうございます!」
にこりと笑ってみせれば、エース先輩は思いっきり顔を背けた。チクリ、と胸に何かが刺さったような気がする。
「なァ、早く行こうぜ!」
今まであまり騒いでいなかったルフィくんの我慢の限界がきたのか、その一言で私たちは移動する事に。どこに行くのかと聞けば、返ってきた答えは「遊園地」。駅に入って切符を買って、目指すは遊園地。
休日という事もあり、遊園地の出入りはなかなか多い。それにしても遊園地なんていつ振りかななんて思いながらゲートを潜った瞬間、ルフィくんが急に全速力で走り出した。
「ルフィ?!」「ルフィくん!?」
「おれが行くよい。エースはシュリを頼む」
エース先輩が走り出そうとしたのを制して、マルコはルフィくんを追いかけていった。その場に残った私とエース先輩は呆気にとられて数秒固まったのち、なんとなくおかしくなって笑い出す。
「じゃあ、おれらも行くか」
「そうですね!遊園地なんて久しぶりです。何に乗ろうかなー」
周りのアトラクションを見ながらどれにしようかと足を進めていたら、急にエース先輩に右手を引かれた。
「・・・危ねェよ」
「あ、ごめんなさい」
「・・・あれ、行こうぜ」
「あれって・・、お化け屋敷?」
「おう。嫌いか?」
「いえ、平気です。・・・たぶん」
「じゃあ決定!」
右手は繋がれたまま、お化け屋敷へ。遠目から見たらそれほど怖そうじゃなかったのに、近くで見たらもの凄い雰囲気。お化け屋敷は嫌いじゃないけど、好きでもない。いわゆる“怖いもの見たさ”。ドキドキと高鳴る胸は、怖さか、それとも・・・。
お金を払って中に入れば今まで行ったどのお化け屋敷よりも雰囲気がそれっぽくて、無意識のうちに手に力が入る。中を進むにつれたくさんの仕掛けがあったけど、それもあと少しで出口というところに差し掛かった。冷やりと、何かが足首に触れたかと思ったら、がしっとつかまれた。
「ひっ、?!」
「シュリ?大丈夫か?」
「だ、大丈夫・・です」
下を見れば手が伸びていたのだがすぐに離れた。また歩き出そうと一歩目を踏み出した瞬間に、腰が抜けた私をエース先輩が支えてくれる。
「どうした?!」
「・・・腰が、」
「腰?・・・もしかして腰が抜けたのか?」
「〜っ、」
「ぷっ」
「笑わないでくださいよう!」
「悪ィ悪ィ・・・!ほれ」
笑いながらエース先輩はしゃがんで私に背中を向ける。これは、もしかしなくても、おんぶ?流石に高校生にもなっておんぶは恥ずかしいなと考えていたら、肩越しにエース先輩が振り返って「早く乗れ」と言う。仕方ないからおずおずと背中へと移動すれば、すくっと立ち上がってお化け屋敷から出る。近くにあったベンチに下ろしてもらって、エース先輩は飲み物を買ってくるといって自販機へと行ってしまった。
「、恥ずかしい・・・!」
今更ながら顔を覆ってみるも、逆効果のようにみるみる顔が熱くなる。一人であわあわとしていると後ろから「何してんだよ」と笑い混じりの声がして、振り向けばエース先輩が笑いながら立っている。
「え、エース先輩!」
「くくっ、シュリ面白すぎだろ。ほら、これ飲んで落ち着け」
エース先輩が隣に座りながら手渡してきたものは缶ジュースで、開けて飲めば少しだけ顔の熱が引いたような気がする。ジュースに口を付けながら隣をちらりとのぞき見れば、視線がばっちりと重なって、にやりとエース先輩は笑う。
どきり、と高鳴る心臓の音で自覚した。あぁ、私エース先輩のことが好き、なんだ。
気付く気持ち