toi et moi | ナノ


おかしい。

何がおかしいって、そんなのは決まってる。ルフィが8時前に起きてきたからだ。テスト前の土曜なんかはおれが朝起こすまで昼近くまで寝てるルフィが、自分から起きて朝飯を食べている。驚いて何もできずに突っ立っていると、ルフィはおれに気づいたのかおはようと、いつもなら寝ぼけながら言うセリフをはっきりと言った。

「・・・ルフィ、熱でもあるんじゃねェのか?」

「失敬だな!おれは元気だ」

おでこに手を当てても熱くなくて、平熱。一体どういうことだ・・・!一人悶々と考えていると朝飯を食べ終わったルフィは、自分の部屋で着替え、手にはなにやら鞄を持っていた。

「どこか行くのか?」

「おう!今日はシュリのとこで勉強するんだ!じゃあ行ってくる!」

「あ、あァ気をつけて行けよ」

バタンッと閉じられた玄関の扉が、なんとなく虚しかった。今まではおれが勉強教えるといっても嫌々だったのが自ら進んで勉強をしに行くと言うのだ。まあいい傾向なんだろうけど、やっぱり兄としては寂しい。こんな気分で一人勉強するのはなんか嫌だったからマルコに電話すればすぐに良いよいと返事が返ってきて、おれも勉強道具を持って家を出た。



マルコの家は商店街の本屋。商店街はおれの家と学校の途中にある。何回か行った事があるマルコの家は覚えてるか多少の不安はあったものの、案外すんなりと見つかった。呼び鈴を鳴らして出てきたのはマルコ。

「はよっ」

「あァ、おはよう。・・・ちょっと待ってろい」

朝の挨拶を済ませればどことなくマルコは気まずそうな雰囲気を残し、家の中に再度戻って行った。ふと下を見れば女物の靴が1つ。なるほど、弟の彼女が来てるってわけか。そうなるとどこで勉強すっかなァ・・・。

「待たせたよい」

「別に待ってねェよ。それよりどうすんだ?ファミマでも行くか?」

「いや、良い場所があるよい」

チャリに乗って移動するんだと思ってたら、マルコは普通に歩き出したので、仕方なしにおれもチャリから降りて歩く。

「そういやァ、弟はどうしたんだよい?いつもエースが教えてんだろ?」

「・・・友達と勉強するってさ」

「へェ、良い事じゃねェかい。・・・ここだよい」

まだマルコの家から歩いて3軒しか通り過ぎてない場所で、マルコは立ち止まった。マルコの目線の先を見れば“カフェ toi et moi”という看板があって、マルコは平然とした風で入り口のドアを開けた。

――カランカラン

「いらっしゃいませー、ってマルコか」

「おれで悪いかよい」

「ふふ、別にー。あ、ルフィくんそこ間違ってる」

店内に入りキョロキョロと見渡していた視線も、聞きなれた名前によって奥の方へ視線が移動する。視線の先にいたのは、9時前に家を出て行った弟のルフィ。そして、ルフィに笑いながら話しかけてる奴を見た瞬間、どくりと心臓が一跳ねした。

「あれ、マルコのお友達?」

「ん・・?あァ、エース、こっちに来いよい」

「エース、先輩っていうんですか?初めまして、シュリです。ルフィくんとは同じクラスで良くしてもらってます」

「こりゃどうも丁寧に・・・」

ぺこりとお互いに頭を下げてから顔を上げれば目が合って、どことなくはにかみながら笑うシュリにどうぞ座ってくださいと言われて、ルフィの横に腰掛けた。それから勉強を始めるも、なかなか集中できなかったのは、多分ここに初めて来たせいだろう。


勉強会で遭遇

 

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