toi et moi | ナノ


ここの商店街で生まれて、ここの商店街で育った。まあ所謂生粋の商店街育ち。そんな私が商店街から出なければならないとすれば、学校へ行く時くらいだろうか。だってここの商店街は基本的になんでも揃ってる。それに商店街で育った私にとってここより居心地の良い場所は無いだろう。そんな私は、商店街の喫茶店の娘。

――カランカラン

「いらっしゃいませ」

「よう、ちゃんと働いてるかい?」

「当たり前でしょ、マルコ。何にする?」

「コーヒーを頼むよい」

「はーい!」

店に入ってきたのは、これまた商店街の住民の一人である本屋の息子、マルコだ。因みにマルコは高校3年で、私は高校1年。昔からの知り合い、つまりは幼馴染とか言う関係だったりするわけで、何と言ってもマルコは“toi et moi”(トワ・エ・モワ)の常連さん。コーヒーを飲むようになった彼に鍛えられた私は徐々にコーヒーの美味しい淹れ方をマスターせざるを得なくなった。今となっては商店街で私の右に出る者は居ないと称されるほどに。

「お待ちどー様!」

「おう、ありがとよいシュリ」

「相変わらず暇なの?マルコは」

「相変わらずは余計だよい、ぶっ飛ばすぞ」

「へへ、ごめんごめん」

口では物騒な事を言うマルコだけれど実際私に手を出した事はない。あ、暴力的な意味で。まあ軽く叩かれるのならしょっちゅうだけど。入り口から入ってカウンターの一番奥のその席はもうマルコの特等席と言っても過言ではないほど、マルコ以外の人は滅多に座らない。

「おじさんとおばさんは相変わらずだねい」

「あー、まあ慣れたし」

ちらりと入り口に近い席を見れば商店街の面々と楽しそうに話す両親の姿。楽しそうな表情が見えるだけで別に良いが、知り合いが来るたびに席に座り込み話し出す両親の変わりにオーダーも調理もほとんどが私。少しは娘の事も考えてほしいものだ。まあ別にお客さんがたくさん来るというわけではないので平気なのだが。

――カランカラン

「いらっしゃいませ、ってシャンクスさん」

「よっ!なんだマルコも来てるのか。シュリおれにもコーヒーくれ」

「分かりました!」

赤い髪が目立つこの人は、学校の先生で私のクラスの担任で、まあ商店街の住民。酒屋なので私は滅多に入らないが、このカフェにはたまに来てくれる常連さんだ。因みに学校ではちゃんと先生をつけるが商店街の中になれば今までと変わらずにシャンクスさんと呼び方は戻る。学校で一度シャンクスさんと呼んだ時は周りの女子の視線が超痛かった。どかりとマルコの隣に腰掛ければ、心なしかマルコの眉間にしわが寄った。

「どうぞ、コーヒーです」

「お、サンキュ。シュリのコーヒーは相変わらず美味ェよな!」

「そうかな?散々マルコに扱かれたせいかも」

「おれが悪いみたいに言うんじゃねェよい」

「まあマルコのおかげでシュリもコーヒーの腕がぐんぐん上がったもんなァ」

だっはっはと笑うシャンクスさんに、両親が絡み始めてたちまち大騒ぎとなった。


商店街の一日

 

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