smile | ナノ
チサが泣きそうな顔してたから、ワンテンポ遅れたけど急いで追いかけたつもりだった。
甲板に確かに出たはずなのに、見渡してもどこにも居ない。船首や船尾、見張り台の上に登っても見当たらない。
「シャレになんねェよ・・・」
これだけ探しても見つからないなんて、今までなくて。もしかしてマルコのところに行ったのかもと思ったけど、その考えはあっさりと覆(くつがえ)された。
「エース、チサはどうしたんだよい?」
後ろから声をかけられて振り向けば怪訝な顔をしたマルコが居た。
「・・・く・・った」
「あ?」
「居なく、なっちまった・・!」
「どういうことだよい」
「わかんねェよっ!確かに甲板まで走ってきたのを見たんだ!なのにっ・・・」
きっと今の自分はすっげェ情けない顔をしてるんだろう。マルコの表情はどんどんと険しくなって、舌打ちをしてどこかへ行った。
一人残された俺は、どうする事もできずにただそこに突っ立っていた。
脳裏には一つ、すごく当たってほしくないことがある。それは、チサが海に落ちたんじゃないかって事。
でも誰も落ちた音なんて聞こえなかったと言った。それでもマルコは船を止めて、海を捜索するように指示した。
こんな時、本当に悪魔の実を食べた事を後悔した。
「チサっ・・・!」
「そんな情けねェ面するんじゃねェよい。きっと大丈夫だ」
ガシガシと頭を無造作に撫でられて、俺は唇を噛み締めた。
それからチサの捜索は日が暮れるまで続いた。
心ではずっとチサのことを呼び続けながら。
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泣いて泣いて、涙が枯れるまで泣いた。
なんでこんなに悲しいのか苦しいのか分からなくて、でも涙が止まらなくて。
気が付けば日は傾いていてオレンジ色がキラキラと光っていた。
どうしてだろう・・・オレンジの太陽を見てると、何かを思い出しそう。
両親の墓標の前で座り込んで泣いていた。だけど、太陽を見るとなぜか心が落ち着くような気がした。
それでも何で泣きたくなったのか、理由が見つからない。
家に帰らないとと思って立ち上がった時に、眩暈がした。だけどその時、ほんの少しだけど、誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。
辺りを見回しても人影なんてなくて。気のせいかなって思ったときに、さっきよりもはっきりと私を呼ぶ声が聞こえた。
「・・・誰・・?」
聞いたことのあるような声なのに、誰が呼んでるのか思い出せない。またズキズキと頭は痛み出して。
「帰んなきゃなのに・・・」
帰ってご飯食べて、明日の準備して、それで寝る前に・・・寝る前に?
「あ、れ・・・?私いつも寝る前になにしてったっけ・・?」
ズキズキと一定のリズムで痛む頭を押さえながら、普段の生活を思い出してみても、唯一寝る前のことだけが思い出せない。
いつも何かを読んでて、その何かって・・・
「わん、ぴーす・・?」
そう言った瞬間に頭痛が酷くなって、枯れたと思った涙がまた出始めた。
ぼろぼろと泣きながら思い出したのは、白ひげで生活した日々。夢のような、そんな日々。
「っ・・・えー、す・・!」
思い出すのはあの太陽みたいな笑顔で笑うエースで。
「、帰り、たいよ・・っ」
あの温かい場所へ。そう思った時、私は青い光に包まれていた。
脱出、さよなら世界
(後悔だけはしたくないから)(ごめんなさい)(今まで育ててくれてありがとう)