smile | ナノ


どことなく、予感がしてたんです。


船内を走り回る事数分。いつまで経っても会いたい人が見当たらない。いつもならすぐに見つけられるのに、今日に限って見つけられない。
朝から少しだけ心がもやもやと、得体の知れない不安に押しつぶされそうになったから、どうしてもエースに会いたかった。
あの笑顔を見たら落ち着けるような気がしたんだ。

「エース・・」

呼んでも返事が返ってくるわけなくて、私の声は静かに消えていった。

「チサ?何してんだよい」

「!マルコさん・・・あの、エース見ませんでしたか?」

「エース?・・・あァ、親父のところに居たよい」

「ホントですか!?ありがとうございますっ」

「走って転ぶなよい」

「はーい!」

ばったり出会ったマルコさんから思わぬ情報ゲット!私はお礼を言いながら白ひげ・・親父さんの部屋へ向かった。
ぶっちゃけ親父さんの部屋に近づくのは始めて会った時以来、だと思う。だって近づけるような雰囲気じゃないし・・・。
部屋の前まで来れば、中に入ろうか待っていようかと迷った。だって親父さんと話するって事はなにか大事な話しなんじゃないかなと。
今更ながら思考回路が正常になってきた。あう・・・どうしよう・・。

「チサ?」

「!あ、エースっ」

「こんなトコで何してんだ?親父に何か用かァ?」

「え、いや、えっと・・・」

「どうした?」

「あの、その・・・ちょっとエースに会いたくて、」

「・・・はァ?」

なに言ってんだコイツみたいな目をしながら私を見るエース。う・・・迷惑だった、かな・・?

「ご、めん・・、またねっ」

「は?って、おい!」

その場に居ずらくなって、私はエースに背を向けて走り出した。だって、なんか・・・気まずかったんだもん。
それに・・・

「あれって、キスマーク・・?」

エースの首筋に赤い丸が見えた。あぁ、もうヤダヤダ!確かにこれが現実なんだけどさ、折角トリップしたんだからこんな気持ちになりたくないのに。
気が付けば船尾まで走っていた。そういえば、私のいた世界はどうなってるんだろ・・・。昨日の夜のおかずも腐っちゃってる、よね。
友達とかも心配してるかな・・?学校も無断で休んじゃってるし・・・。あ、ヤバイ泣きそう。

「・・ふ、ぅ・・・ッ」

ぽろぽろと流れる涙は止まらなくて、私はその場に蹲(うずくま)った。無性に悲しくて苦しくて、疲れてしまった。
その時だった。
突如強い風が背中の方から吹いてきて、私は海へ真っ逆さまに落ちていった―



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ドサリッ

「痛っ・・・」

気が付いたらベッドから落ちていた。ベッドから落ちるなんていつ以来だろう・・・。
普段と変わらない生活をしてたはずなのに、どこか違和感を覚える。心にぽっかりと穴が開いたような、そんな感覚。

「・・・なんだろ、この気持ち」

時計を見ればまだ深夜3時。もう一眠りする為に私はベッドに再び寝転がった。そして、夢の世界へ。



ピピピピピ、

目覚ましの音が枕元で響いて、それを止めながら私は起き上がった。それでもどこかパッとしなくて。
何かが違うんだけど、その“何か”の正体がわからない。

「さてと、今日は忙しいんだからしっかりしないと!」

頭を軽く振り、ベッドの上から降りた。


――今日は、両親の命日


あの日から既に6年が経過していた。早いような遅いような、複雑な感じ。
私の家からお墓までは距離があるため、午前中から電車に乗ってお墓参りに行く。毎年この日だけはいつまで経っても慣れない。

朝食を軽めに食べて、家を出た。
電車に揺られる事約1時間弱。それから徒歩で40分程度の場所に両親は眠っている。
海が見える小高い丘。どこまでも続く青が、いつでも私を見守っててくれるような気がした。

「お母さん、お父さん、私元気だよ。高校にもちゃんと通ってるよ。・・・でもね、昨日からなんか気持ちが落ち着かないんだよね」

海を見てると特に気持ちが昂って、とても悲しい気持ちになって、気が付けばまた私は泣いていた。
あれ・・・そういえば私つい最近も泣いたような気がするんだけど・・いつだっけ?あれ?なんで私泣いたの?
何かが悲しかったはずなのに思い出せない。・・・違う、思い出そうとするとズキズキと頭が痛くなって・・。
忘れてる・・・?何を・・?
心にぽっかり空いたような感覚が、今も残ってる。



我慢できない、心


(痛いよ)(苦しいよ)(ねぇ、どうして)


 

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