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私はどちらかと言えば低体温。まあそれで困った事があったかと言われれば、そういうのも特になかった。
でもたまにふと思うことがある。なんで私の体温はこんなにも他の人に比べて低いのかと。思ったところで何かが変わるわけでもないが。
あー・・でもやっぱり冬はちょっと寒すぎるかなって感じ。うん、だって現に今も寒いんだもん。

冬島と言うのが近いらしく、甲板には薄っすらと雪が積もっていた。今も雪は甲板を白い絨毯(じゅうたん)にしようと降り続いている。
ほうっと吐く息は白く、更に寒さを感じさせた。が、どうやら白ひげのみんなは違うようだ。
普段とさほど変わらない服装で元気に雪合戦なんて始めた。大の大人が雪を投げ合う様を見るのはなんともシュールだ。
しかもみんな結構本気で投げていて、壁に当たる雪の音がおかしい。当たった壁の方を見て、その下へ視線を向ければ未だ砕けていない雪の玉があった。

「・・・中に入ろうかな・・」

いつまでも甲板に居たら雪合戦の被害に遭いかねない。そう思って、船内へ続く入り口の方へ小走りで向かった。
何がいけなかったのか、それとも神様は私が嫌いなのか。「危ねェ!」と言う叫び声の後、後頭部に凄まじい痛みが広がった。

「ッ!?」

「だ、大丈夫かァ!?」

あまりの衝撃と痛さに後頭部を押さえてその場に蹲(うずくま)った。あ、ヤバイ涙出そう・・・。
駆け寄ってくれたみんなには悪いけど、私はただ黙って痛みを耐えた。誰だよ、こんなにかったい雪玉作ったの・・!
やっと痛みが引いてきたところで顔を上げてみると、お腹を抱えて爆笑してるサッチさんが視界に入った。

「・・・サッチさん?」

「あ、さっき雪玉当てたのサッチだよい」

不思議がっていると後ろからマルコさんの助言。そうか、そういうことか。
つまり私が痛がってたんこぶまでできた姿を見て笑っていたわけか。当てた張本人が。
ふつふつと湧き上がる怒りに、未だ笑い転げてるサッチさんは私に気が付かない。
私の後ろを振り返れば頭に当たったであろう雪玉がまだ真ん丸い姿をして落ちていた。これを使わない手はないだろう。
雪玉を掴みあげると冷たくて、でもそれ以上にサッチさんへの怒りが勝っていた。

「・・・サッチさん、」

「・・あ?」

やっと私の存在に気が付いたのか、笑いを堪えながら私の方へ向き直った。

「サッチさん、」

「な、なんだよ」

「覚悟、してくださいね?」

私の不穏な空気を感じ取ったのか、後退るサッチさんに微笑めば、見る見るうちにサッチさんの顔が青くなった。
そんなのお構いなしに先程手に取った雪玉を力一杯投げた。これでもコントロールはいいほうだと思う。

「がっ!」

あまりの速さにか避けられなかったサッチさんは、丁度顔面で雪玉を受け止めた。ざまぁみろ。
びゅうっと冷たい風が吹いて、思わず身震いをした。

「さっむ・・早く中行こっ」

「え、チサもう行くのか?一緒にやろうぜー」

「あー・・・私寒いのダメなんです。すいませーん」

苦笑しながら言えば風邪引くなよなんて声が返ってきた。
船内に入っても廊下にストーブなどがあるはずも無く、外よりかは寒くはないがやっぱり寒いのに変わりない。
さてと・・・まずは医務室に行ったほうがいいかな?でも大丈夫かな?
雪玉が当たった後頭部をさすりながら歩いていると、いきなりドアが開いて私の顔面に直撃した。

「ぶっ!」

「は?」

鼻打った、鼻!超痛い!
扉を開けた奴を睨んでやろうと思ったら、そこには普段と変わらぬ格好をしたエースが居た。

「お、おい、大丈夫か!?」

「あー・・・たぶん。てか寒くないんですか?」

「おう!」

いつもの太陽のような笑みで言われ私は若干顔が引きつった。この寒さで半裸とかありえない。
すると、ぽたりと鼻血が出てきた。

「あ」

「え」

ぽたりぽたりと落ちる鼻血を手で押さえて、医務室へ向かった。後ろにはなぜかエースがついてきていた。

「大丈夫か?」

「へーき、だと思います」

医務室で後頭部と鼻を見てもらってる間、何回この質問をされただろうか。軽く5回は聞いた。
しゅんと項垂れているエースを見て、不謹慎かもしれないが少しだけ可愛いと思ってしまった。
鼻血は思ったよりも早く止まり今日は一応安静にと船医さんに言われた。まあ言われなくてもこんな寒い中で遊んだりしないし。

かちゃりと医務室を出れば、やっぱり寒くて、思わず身を震わせた。

「寒ィのか?」

「あー、はい」

私が身震いするのに気が付いたエースは、後ろからいきなり抱き締めてきた。

「・・・は?」

「いや、寒ィんだろ?」

「えっと・・確かに寒いんですけど・・・」

「俺ァメラメラの実食ってるから温けェだろ!」

ニカッと笑うエースの腕を触ってみたら、確かに温かいかもしれない。

「・・・なんか、お日様みたいですね」

「お日様?」

「うん。すごく温かい」

「じゃァチサは月だな!」

「どうして?」

「お日様に温めてもらってるから」

にやりと笑うエースに、私の体温が少しだけ上がった気がした。確かに、そうかもしれない。




お日様と、月



(もうきっと、)(あなた無しでは)(寒くて死ぬでしょう)


 

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