smile | ナノ
やっぱり人間慣れるのには早くて、気が付けば私は毎日を効率よく凄くことを考えるようになった。
まあ昔からそうだったからなんだけど、無駄ってなるべくなくしたいじゃん?イロイロと。だからか私は朝起きてから一日のすることをパッと考える。
が、今日は特に何もすることがなく(洗濯も昨日やったし、甲板の掃除も昨日やった)、つまり暇なわけだ。
普段暇なら家でゴロゴロしてる私だが、生憎人様の家(船?)でゴロゴロしてるような図太い神経はしていない。一応家族なんだけども。
そこでふと、最近食べていないものに気が付いた。私的には定期的に食べたいものでもある。
「んー・・・材料あるかな?」
多分この船の大きさならあっても良いとは思うんだけど・・・なかったらどうしようもないしなぁ・・。
とりあえず思い立ったら行動するのが私の長所であり短所である。ベッドから立ち上がり部屋を出て、向かう先はキッチン!
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慣れ始めた船内を迷うことなくキッチンへ向かう。最初のうちはあまりの広さに迷子になったこともある(エースさんが見つけてくれたけど)。
鼻歌を歌いながら歩いていると、前方に見慣れたオレンジ色。あちらはまだ私の存在に気づいてない。
一度立ち止まり、鼻歌も止め、深呼吸をした。よし!
「エースさんっ!」
「ぉわ!」
タックルと言っても過言ではないような勢いでエースさんに抱きつけば、不意打ちだったせいか前方に前のめりになった。それでも倒れない辺りやっぱりすごい。
衝撃でパサリと落ちたオレンジ色のテンガロンハットを拾い、被りながらエースさんは振り返った。
「おはようございます、エースさん!」
「あァ、はよ」
にへらと笑えばいつもの笑顔で返してくれるエースさん。ついでに今日は頭を撫でるサービスまでしてくれた。
あぁ、私って幸せだ・・!
顔が緩んでいくのが自分でも分かって、それでも緩みが止まることはなかった。
「そういやァチサはなにしてんだ?」
「?」
「どっかに行くんじゃねェのか?」
「あ!エースさん、エプロン持ってますか?」
「エプロン?んー・・持ってねェな。サッチなら持ってるんじゃねェか?」
「そうですか、ありがとうございます!」
「なんか作るのか?」
「ふふ、秘密です。ちゃんとできたら教えますね」
「おう!楽しみにしてんな!」
「頑張りますっ」
再度頭を撫でて、エースさんはまたどこかへ行った。よし、私も頑張らないと!
とりあえずエプロンがあるのかサッチさんに聞かないと。どこに居るんだろ?とりあえずキッチンに行くか。
最初の目的地であるキッチンへ向かえば、丁度サッチさんがお茶を飲んでいるところだった。暇なのかな・・?
「チサちゃん、どうかしたの?」
「あ、別にたいした用ではないんですが・・、キッチン使ってもいいですか?」
「あァ、良いよ。何か作るの?」
「はい!あとエプロンとかありますか?」
「あるよ。少しサイズがデカいかもしれねェが・・」
「大丈夫です!ありがとうございますサッチさん!」
棚を開けてサッチさんが渡してくれたエプロンはまだ使ってないような真っ白なエプロン。
使い古しでいいと言えば、気にしなくて良いと。手を切るなよなんて言われて軽くポンポンと頭を叩かれた。
これ以上遠慮するのも何だか気が引けるのでもう一度ありがとうと言って私はキッチンの中へ入った。
なかなか綺麗に掃除されていて、道具なんかも大切に使われていたことが分かる。
キッチンっていつもサッチさんが使ってるのかな?さっきエプロンを出してくれる時にも棚を間違ったりしなかったし・・。
エプロンを着てみれば少しだけ大きかったが、大きすぎて動きにくいなんてことはなかった。
冷蔵庫の中身を見てみれば、たくさんの食材が入っていた。きっとこの半分はエースさんの胃袋にいくのかななんて考えながら。
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あれからどのくらい時間が経ったのか、気が付けば予定よりもたくさん作ってしまった。
テーブルの上にはアップルパイにクッキー、様々なタルト。こんなにも作ってしまったら怒られないかと悩んでいた時だった。
「これ全部チサちゃんが作ったの!?」
「あ、えっと、その・・・」
いきなり現れた声の方を見ればテーブルの上を見て驚いた表情をしているサッチさんが居て。
やっぱり作りすぎてしまったと後悔した。折角船に乗せてもらってるのに迷惑ばかりかけてる。
次第に目に涙が溜まって、こぼれないようにエプロンの裾を力一杯握った。
「チサちゃんって料理できたんだね・・これからは厨房も手伝ってもらおうかなァ」
「・・・え」
てっきり怒られると思ってたのに、サッチさんの言葉は予想外で、更にどんどんと話を進めている。
「あー、でもチサちゃんの手料理が食べられるとなると乱闘が起こりそうだなァ・・」
「あのっ」
「ン?どうした?」
「お、怒らない、んですか・・?」
「なんで怒るんだ?」
「だって、こんなに材料使っちゃって・・」
「あァ、それなら気にすんな。あと2日くらいで島に着くって言ってたし」
ホッと肩に入ってた力を抜けば、ケラケラとサッチさんに笑われた。恥ずかしくなって赤くなっているであろう顔を見せないようにそっぽを向いた。
そういえばできたらエースさんに教えるという約束をしていたのを思い出して、急いでアップルパイを一切れ取り、皿にクッキーとタルトも一緒に乗せた。
「わ、私用事があるのでちょっと行ってきます!」
「あァ、エースなら甲板だよ」
「!!」
サッチさんを振り返って見れば、にやにやとした笑いを浮かべながらタルトを食べていた。
頬に熱が集まるのを感じながら、皿の上に乗せたものを落とさないように走ってキッチンから逃げ出した。
甲板へ出ればすぐに見つかるオレンジ色のテンガロンハット。
小走りで走っていけば、足音に気が付いたのか、それとも甘い匂いがしたのか、くるりと後ろを振り向いた。あ、目が合った。
「チサ、今良い匂いが」
「これですか?」
皿に乗せたアップルパイやクッキーを見せればキラキラと顔を輝かせた。子供みたいで可愛い。
どうぞと言って渡せば、目を丸くしてびっくりした。
「これ俺が食っていいのか?」
「もちろんです!キッチンに行けばまだあまりがありますから」
「おォ、うめェ!!」
ペロリと平らげたエースさん。でも本当に美味しそうに食べてくれるから、私も嬉しい。
そういえば誰かに食べてもらうのって久しぶりだな・・。
「・・・」
「・・、どうかしましたか?」
「なァ、また今度作ってくれよ!」
「!わ、分かりました!」
じっと見てくるから何かと思ったら、こんな嬉しいお願いなんていつでも大歓迎だ。それにエースさんの笑顔が見れる。
にこりと笑って言えば、エースさんはまた目を丸くして、でも今度はすぐに視線を逸らされた。あれ、私何かしたかな?
「そのエプロン・・」
「あ、サッチさんがくれました」
「ちょっと大きいな」
「そうですね。でも大丈夫ですよ?」
「次の島着いたら買ってやるよ!」
「ホントですか!?わー、楽しみっ」
会話を楽しんでいたら、船内からサッチさんが出てきて、やっぱりにやにやしながら私たちのところまで来た。
するとなんでも私が作ったお菓子の評判が良かったらしく、今キッチンはすごいことになってるらしい。
・・・あ、私の分取っとくの忘れた。
エプロン、ありますか?
(今度はエースさんだけじゃなくて)(ちゃんとみんなの分も作ってみよう)