smile | ナノ


「ただいまーっと」

誰も居ない家に挨拶をして、靴を脱ぎ散らかす。だって並べるの面倒なんだもん、仕方ないよ。
外が暗くなり始めているせいかいつもより部屋の中が暗く感じた。
2階にある自分の部屋に向かい、制服のままベッドにダイブ。この時が一日の中で一番の至福の時だ。

「りおー、ただいまー!」

ベッドに置いてあるペンギンのぬいぐるみ。これが何と言っても触り心地最高!
ふわふわの毛がなんとも言えない気持ちよさを演出してる。
大きさとしてはそこまでなんだけど、私はこの“りお”が気に入っている。
因みになんで“りお”なのかというとただの思いつき。それでも私なりにはいい名前かなって思ってる。

「よし、今日はオムライスにしよう」

ぎゅーっとりおを抱きしめたあと、制服から部屋着に着替え1階のリビングへと降りた。
今日の夕飯はオムライス!子供なら誰でも大好きだよね!
イスに放り投げてあった白のシンプルなエプロンを着け、キッチンへと足を進めた。


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「ぷはーっ、美味しかった!ごちそうさん!」

我ながらに中々美味しくできたと思う。まあ料理は割りと好きな方だし、昔からやってるんだから当然と言えば当然か。
ちょっとおっさんみたいな感じだったけど気にしない。
テレビではどこもバラエティー番組をやっていて、笑いを取るのに頑張っている。
あーあ、なんでこんなに笑いを取ろうと頑張れるのかが私には理解できないよ。
人間笑いたい時に笑えばいいんだよ。無理して笑うなって、昔怒られたっけ・・・。
物思いに耽(ふけ)りながらテレビを見ていると、ゴーン・ゴーンと鳴る時計の音で現実に戻された。
気が付けば既に8時を回っていた。せめて皿の片付けぐらいはしておかないと明日が大変になるのだ。経験者は語る。

「・・・そういえば、明日だっけ」

カレンダーを見れば明日の日付に丸が付けられていた。

カチャカチャと音を立てながら皿を洗い、明日のご飯をセットする。よし、準備完了。
1階のテレビを消して電気を消して、私は早々に自分の部屋に入った。明日の準備をして(と言っても教科書類は置き勉してる)、本棚から漫画を取り出した。
最近再ブーム中のONE PEICEだ。なんていっても私はエースが好きだ。あの素直に感情を出せるということも羨ましいし、何よりあの笑顔にやられた。
いつものようにベッドに寝転がり漫画を読み始めた。これが私の日課と言っても過言ではない。

「今日は空島編っ」

嬉々として漫画を手に取り読み始めた。


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あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか。
まだそれ程経ってないはずなのに、私は睡魔と闘っていた。今日はそんなに疲れたりしてないはずなんだけどな・・・。
うとうとしながらも寝るにはまだ早すぎると思うし、漫画の続きだって読みたい。
睡魔と格闘していたが、気が付けば目蓋が下りてきて夢の世界へ旅立とうとしていた。


そういえばさ、ベッドから落ちる時って何かしら落下する夢見るんだよね。
まあ現在進行形なんだけどさ。今崖から落ちるような浮遊感が漂ってる。でもすぐにベッドから落ちたら床につくはずだし、大丈夫。

・・・なんて思ってたんだけど、いつまで経っても床に落ちる気配がない。
恐る恐る目を開けてみて、絶句した。

「・・・は?え?」

みるみる落下する私の真下には、青く輝くブルー。つまりは、海だ。
ちくしょう、なんて夢なんだよこれ!私確実に死亡フラグじゃないですか、ちょっとどういうこと!

「っ、」

次第に近づく海と私。
こんな状況で混乱するなと言う方が無理な話なわけで・・・



「ぎゃぁぁあああああああ!!!!!!!!」



女らしさなんて感じない程の絶叫を最後に、私は意識を手放した。



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いつもと変わらない安定した天気。
それでもどこかモヤモヤとした気持ちが渦巻く。一体なんだよこれ。
自分自身に問いかけても分かる筈もなく、溜め息を一つ吐いて空を仰いだ。その時だった。
太陽に重なるようにだが、微かに見える黒いモノ。それと共に聞こえた叫び声。

「ぎゃぁぁあああああああ!!!!!」

その黒いモノが人だと理解するのに時間は掛からなかった。丁度ソレは俺の真上から落ちてきた。

「なんで空から人が・・?」

とりあえずキャッチしようと手を伸ばせば、そこを狙ったようにその人は落ちてきた。よく見ればまだ幼さの残る少女だった。
気を失ってるらしく、少しだけ顔色も悪いような気がした。

「エース隊長、今空から何か降ってきませんでしたか!?」

「ん?あぁ、コイツか?」

「!へぇ、こりゃ可愛いな」

ずっとこうして抱きかかえてるのも疲れるから床に寝せれば、ヒョイッと覗いてきた隊員。
起きろーと言いながら頬をペシペシと叩くと、少しだけ唸るような声が聞こえて、ゆっくりと目蓋が上がった。
目を見て思わず吸い込まれそうだと感じてしまった。真っ黒で何も知らないような、でもどこか悲しそうな瞳だった。

「起きたか?」

「・・・・・」

笑って言えばソイツはかっと目を見開いた。うお、びっくりした・・!
そしてピタリと動かなくなったソイツの目の前で手をひらひらと振れば、またはっとして周りをきょろきょろと見回していた。

「・・・うそ、」

そう呟いたのが聞こえ、そのあとサーッと音がするようなほど青くなっていた。

「大丈夫か、お前?」

「え、あ・・はい」

未だに状況を理解出来ないような表情をするソイツを、とりあえず親父のところまで運ぼうかと考えた。

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「(嘘・・・エースが、目の前で喋ってる・・。え、夢・・・?)」

夢にしてはやたらと鮮明で、リアリティがありすぎる。
試しに自分の頬を少しだけ抓(つね)ってみたら、普通に痛かった。
ということは、もしかしてこれって・・・トリップ!?



気が付けば、異世界


(どうして、)(ただそればかりが)(頭の中で反響する)


 

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