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いつもと同じように午前中は洗濯をして、掃除をして。なぜか今日は思いのほか早く終わってしまった。

「どうしよう・・・」

「何がだよい」

「あ、マルコさん!丁度良いところに」

「どうした?」

「何か手伝う事ありませんか?」

「手伝い?そうだなァ・・・調理場行ってみたらどうだい?」

「分かりました!ありがとうございます」

軽く会釈をしてマルコさんの助言により私は調理場へ。お菓子を作って以来、たまに食事の準備の手伝いとかもしたりする。
調理場をこっそりと覗いてみれば、すでにお昼の準備に取り掛かっているようだった。私の出る幕はなさそうなので、音を立てて邪魔をしないように抜き足差し足で調理場を後にしようとした。

「あれ、チサちゃん?」

「!」

「どうした、調理場に何か用か?」

「えっと・・・何か手伝う事はないかなと思いまして・・」

「なに、手伝ってくれるのか?」

「はい!皿洗いでもなんでも!」

「そうだなぁ・・・それじゃ食料庫に行って食材取ってきてくれるかい?」

「わかりました!」

コックさんから持ってくる食材を紙に書き出してもらい、私は食料庫へと足を進めた。流石白ひげ海賊団、人数も多ければ食料庫の大きさも普通よりも数倍大きそうな感じ。
それに白ひげにはエースという大食漢が居る。むしろこれだけの食料庫というのは少ないのかもしれない。
必要な食材を探して調理場へ向かおうとした時だった。


「敵襲だーっ!」


その声と共に激しい水音が響き渡った。すぐに甲板も人で溢れかえり、戦闘になったら船内に居るようにとあれほど言われたにも関わらず、船内に戻れなくなってしまった。
こうなればこの場で乗り切るしかないと思い、倉庫に鍵をかけ一番奥へと身を潜めた。

敵が来ませんように来ませんように来ませんように・・・!

心臓は異常なほど速くなり、神に祈るように胸の前で手を組み目を強く瞑った。そんな願いも虚しく、敵らしき声が鍵をかけたドアの前で話をしていた。
次の瞬間には鍵の周りに刀が突き刺さり、鍵は無意味となってしまった。バレないように更に体を縮めて、息を殺した。

「なんだ、食料庫か」

「チッ、誰だよ食料庫なんかに鍵かけやがって紛らわしい」

特に漁る様子もなく、男達は出て行こうとした。私は気が抜けて肘に箱が当たってしまった。

「おい、今音がしなかったか?」

「あァ?なにかいんのかよ」

「・・・調べる価値はあるんじゃねェか?」

急いでいるのか足音は少しだけ速くて、確実に私の居る奥へと迷いなく進んできた。ドキドキと嫌な程高鳴る心臓を押さえながら、見つかりませんようにと息を殺した。
少し経ったところで静かになったので、もう食料庫から出て行ったのかと思って様子を見ようと壁と大きな箱の間から顔を覗かせる為に上を見た。

「っ!!」

「こんなところにお嬢ちゃんが居るとはなァ」

上を見上げてまず最初に見たのはニタニタと笑ってる男・・・敵、だ。逃げようにも外は戦闘中だし、この中じゃ逃げられる場所も限られてる。こんな時、食料庫が船内への入り口から遠い事がこんなに最悪だと思ってしまった。

「逃げようなんて思わねェことだな」

腕をつかまれ力ずくで私は壁と箱の間から出された。

「放して!触らないでっ」

「おォ、威勢がいいねェ」

「っ・・・放せっ!」

男の力は強く、私が暴れる度にギリギリと強く握られた。顔を歪めると男達は楽しそうに笑い、更に力を入れてきた。私の腕なんか簡単に折れるんじゃないかと思うほど、男の力は強かった。

「いっ・・もう、イヤ、放して・・・誰かっ」

「チサっ!」

「!」

突然現れた声の方を向けばそこには息を切らしたエースが立っていた。男達を睨みつける視線は本当に怖くて、でもエースの姿を見ただけで私は安心した。
男達はエースが来たことに驚き、隙が出来てしまった。そこからはエースが火拳を放ち、あっという間に相手は倒された。私も解放され、その場にへたり込んだ。

「大丈夫か!?」

「っ、エース・・!」

「悪ィ、遅くなっちまって」

「わ、たしっ・・こわ、くて」


緊張の糸が切れたのか、ぼろぼろと泣き出すチサの頭を撫でてやれば声をあげて泣き出した。
その後数分泣いたチサは泣き疲れたのか、そのまま眠りについた。



君が、泣かないように


(今度は)(俺が絶対に守るから)


 

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