smile | ナノ
昨日の宴のせいで甲板にはごろごろと横たわってる人がたくさん居た。その人たちを踏まないように注意しながら毛布をかけた。
まあ昨日と言っても現時刻は朝日も見えない早朝なのだが。流石に風邪引かれたりしたら大変だろうし・・。
全員に毛布をかけ終わった所で、私は船首に立った。少しだけ肌寒い風が吹いて、波の音がして。それがとても心地良かった。
「帰って、来たんだなぁ・・・」
この世界に、この海に、この船に。
お母さん、お父さん。私ね、大切な人たちがたくさん出来たんだ。それとね・・・好きな人、も。
この世界で精一杯生きるから、頑張るから。だから、心配しないでね!
月に向かって、手を合わせた。きっと月はどこの世界に居ても繋がってるような気がするから。
「・・くしゅんっ」
やっぱり夜風は冷たくて、体はすぐに冷えていった。そろそろ部屋に戻って寝ようとして、踵(きびす)を返した。
後ろを振り向いて歩き出そうとした時に、目の前に壁ができたように軽い衝撃と共に私は後ろに倒れそうになった。
「おっと・・」
後ろに傾いていた私の体が、今度は前のめりになって誰かにぶつかった。
顔を上に向けてみればそこにはエースが居て、ニカッと笑った。それにしてもこの人は半裸で寒くないのかな。
「こんな所でなにしてたんだ?」
「・・決別を、してました」
「決別?」
「家族と、友達と、世界と・・・」
「・・・そっか」
「はい」
しんみりとした空気が辺りを漂って、私はもう一度月を見た。そういえば前にエースが私を月だって言ってたっけ。
ふふっと笑えば、なぜかエースに小突かれた。なんていうか、ちょっとだけ恋人みたいだな、なんて。
「ねぇ、」
「なんだ?」
「私エースに会えて良かったよ」
「そりゃどうも」
「この世界に来れて、みんなと出会えて、本当に感謝してる」
言葉では伝えきれないほど、私は感謝してる。あの一人で、ずっと孤独だった世界から抜け出す事ができた。
もし見つけてくれたのがエースじゃなかったら、この船じゃない場所に落ちてしまったら。海賊達が蔓延(はびこ)るこの世界で、きっと私は死んでた確率の方が高い。
最初は頭がついていかなくて、本当になんで私なんだろうって思ってた。でもね、今は違うんだ。
「エース、」
「あァ」
「私ね、一つだけエースに言えてないことがあるの」
「・・・なんだよ、それ」
「あの、ね・・・」
鼓動が速くなりだして、顔に熱が集中するのが分かった。だって、人生初なんだもん。
告白された事は数回あった。だけど、私は恋もしたことがなかったから。多分、初恋はきっとこの人。
だからね、勇気を出して・・・。
「わ、私・・・エースのことが、」
「ちょっとストップ!」
「へ?」
手を前に出されて、私の言葉は途中で止まった。もしかして迷惑、だったとか・・・。
「俺も、チサに言いてェことがあンだよ」
「な、に・・・?」
「俺、チサが好きだ」
時が止まったような気がして、でも私の心臓はさっきよりも格段に速く波打ってて。
「チサは?」
「ッ、わ、たしも、エースが好きっ」
ぎゅっと目を瞑って答えた。だって、今の私はきっと耳まで真っ赤なんだもん。恥ずかしいよ。
そんな私の心情を知ってか知らずか、エースはギュッと抱きついてきた。力強く、それでもちゃんと加減してくれてて。
私もおずおずと背中に手を回せば、更にエースは強く抱き締めた。
「俺、今すっげェ嬉しい!」
「わ、私もっ!」
互いに顔を見合わせて笑うと、ゆっくりとエースの顔が近づいてきた。
素直に、打ち明けます
(唇に、温かいものが触れた)