smile | ナノ


青い光に包まれたかと思うと、眩しくて思わず目を瞑ってしまった。・・・が、特に何かが起こる事もなく恐る恐る目を開けてみた。
そこは木の匂いと、お酒の匂いが混ざっていた。目の前に居る人は、私がこの世界に戻った事を証明させた。

「グラララ、どこに行ってたんだ?」

「お、やじ・・さんっ」

周りの空気を揺らすような笑い声に低く響く声。さっきまであんなに泣いたのに、私はまたぼろぼろと泣き出した。
時折嗚咽をもらしながら、私は泣いた。親父さんは何か言うわけでもなくただゆっくりと頭を撫でてくれた。
それが更に泣き出すような結果になり、私は結局大声を出しながら泣いた。

「・・・落ち着いたかァ?」

「はい・・・。あの、」

「馬鹿息子共が心配してらァ、早く元気な姿見せてこい」

「っはい!」

「グララララ!良い返事だ!」

一頻り泣いて、やっと泣き止んだ。その間もずっと親父さんは何も聞かずに、ただ黙って私が泣き止むのを待っていてくれた。
立ち上がり部屋を出る為にドアへ向かって歩き、出る前にもう一度振り返った。相変わらず親父さんは優しい笑顔で見ていた。
ごくりと唾を飲み込む。自分の心臓の音がいやに大きく聞こえた。

「あの・・もうちょっとしたら甲板に来てもらえませんか?みんなに、話さないといけないことがあるんです」

「あァ、わかった」

「ありがとうございます」

一礼をして、私は部屋を出た。緊張からか手が微かに震えているのが分かった。
話さなきゃいけないんだ、私がどこから来たのか。これが私なりの精一杯のけじめだから。
コツコツと靴の音だけが響いていた。いつもなら誰とも会わない船内なんてないのに、今日は誰も居なかった。
このドアを開ければ甲板に出るわけで、私は一度深く深呼吸をした。みんなは怒っているだろうか。それとも呆れてるだろうか。
ゆっくりとドアノブを回した。バクバクと心臓は高鳴り、それでもドアを開けた。

「チサ・・・?」

「!」

「っチサ!!」

「エー、ス・・」

「どこ行ってたんだよ!心配したんだぞ!?」

「あ、ごめん、なさい・・」

「・・・無事で良かった」

「えっ、ちょ・・」

最初に私に気づいたのはエースで、すごく焦った様子で私の元へ走ってきた。最初は肩を掴まれていたのに、気が付けば私はすっぽりとエースの腕の中に居た。
周りからはヒューヒューと茶化すような声と、心配したんだぞーと、無事で安心したと。
恥ずかしいのと嬉しいのと、いろんな気持ちが混ざり合って、また泣きそうになった。

「っ・・た、だいま」

『おかえり!!』

エースの腕から解放されて、泣くのを堪えながら“ただいま”と言えば、みんなは笑顔で“おかえり”と言ってくれた。
それから揉みくちゃにされながらみんなに声をかけられて、私は本当に嬉しかった。

――だから、少しだけ怖かった。


「グララララ、少しは落ち着けおめェら」

その声にまた心臓が一跳ねした。

「チサ、話ってのは何だ?」

「・・話?」

一番に食いついてきたのはエースで、でも他のみんなもどこか心配そうな表情をしていた。

「あのね、私みんなに言わなくちゃいけないことがあるの」

ちゃんと言おうって決めたのに、心臓はどんどんスピードを上げていく。

「私・・・、本当はね、この世界の人間じゃないんだ」


私の世界は大海賊時代なんてないし、偉大なる航路も一つなぎの大秘宝もない。海より陸が多くて、争いがほとんどないの。
この世界よりも技術が発達して、悪魔の実なんてものもない。本当に平和な世界。
でもね、私はここの世界に来る前に、あなた達の事を知ってたの。私の世界に“ONE PIECE"って本があって、その主人公がルフィなの。
なんでこの世界に来たのかも、なんで前の世界に戻ったのかも分からない。だからいつ戻るかも、分からない。

「・・・私ね、みんなの事が大好きだよ」

くるりと周りを見渡せば真剣に話を聞いてくれている。こんな、いきなり訳の分からない話をされているのに。

「なァ、チサはここに居たいんだろ?」

「・・うん。できることなら、この先ずっと、みんなと一緒に旅がしたい」

「ならなんでもいいじゃねェか」

「え?」

「チサがどこから来ようが関係ねェよ!それにもし帰ったとしてもまた連れ戻すし」

難しい話はよくわからねェが、と自分の頭をガシガシとかきながらエースは言った。

「チサはチサだろ?」

ニッと太陽みたく笑うエースに、私はまた泣きながら頷いた。

「グララララ!チサ、小せェ事は気にすんな!」

「っ、はい!」

その後、親父さんが私の帰りを祝って宴だなんて言うからもうみんなはドンチャン騒ぎ。
私もその場に座らされて、みんなを見ていた。これが、この場所が、私の帰る場所・・。
心が温かくなって、思わず口角が上がった。

「チサ!」

「あ、エース!」

私の隣に腰を下ろしたエースは、少しだけ真剣な顔で私に向き直った。

「なァ、なんで今まで違う世界から来た事黙ってたんだ?」

「それは・・・」

「それは?」

「・・・秘密、です」

「はァ?」

にこりと微笑めば、それ以上詮索される事はなかった。




言えなかった、真実


(否定される事が怖かった)(そんな事ありえないのに)


 

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