拍手お礼 | ナノ

 

「精市!」

名前を呼ばれて、目を開ければ視界一杯に母の姿。目には涙を溜めて、俺が目を開けたと同時にポロポロと零れ落ちた。

「母さん・・・?」

「良かった、手術は無事成功したのよ」

手術・・・そうだ、俺はまたテニスをする為に、手術を受けたんだ。でも、

「夢を、見てた気がするんだ」

「夢?」

「そう。とても大切な・・・」

あれは本当に夢だったのか。名前ちゃんと過ごした1週間は鮮明すぎて、夢と思えない。母さんがナースコールを押せば主治医の先生が来て、これからはリハビリをするそうだ。




リハビリを始めて1ヶ月。少しずつだけど、戻ってきたような気がする。少しでも体力をつけたくて院内を歩いていたら、外の方から声が聞こえた。

「名前ちゃん、外はね、いい天気よ」

ナースの一人が車椅子を押していて、その車椅子に乗っているのは、

「・・・名前、ちゃん?」

夢の中で会った、彼女にそっくりだった。いや、もしかしたら彼女本人かもしれない。焦る気持ちを抑えながら、車椅子の方へ近づく。近づけば近づくほど、彼女は名前ちゃんにそっくりだった。

「あの、」

「あら、精市くん。どうしたの?」

「・・・その子、苗字名前ちゃんですか?」

「えぇ、そうだけど・・・」

やっぱり、名前ちゃんだったんだ。車椅子の前で腰を落とせば、虚ろな目をした彼女が居た。

「名前ちゃん、俺ちゃんと帰ってきたよ。また、会えたんだよ」

話しかければ、ピクリと指が動いた。あぁ、聞こえてる?ねぇ、また話したいんだ。これからはこっちで、いろんな場所へ行こうよ。山の中みたいに空気は良いとは言えないけどさ、きっと楽しいから。だから、

「目を、開けてよ」



「――せ、いち、くん」


小さな、とても小さな声が聞こえた。




そして全ては、廻り出す




end.
2011.12.03


 

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