拍手お礼 | ナノ
たくさん、たくさん話をした。家族の事、学校の事、部活の事。世の中はこんな風なんだよって、自分も思い出すように話した。今日はなにを話そうかなって思ってた。
「・・・幸村くん、」
「どうかしたの、苗字さん」
「・・・ううん、なんでもない」
苗字さんは昨日からこうやって苦しそうに笑う。その理由が一つだけ思い当たるから嫌になる。でもそれに気づかないフリをして、いつも通りの笑顔を向ける。
「ねぇ、名前ちゃんって呼んでいいかな?」
「え?」
「もう1週間近く一緒に居たんだし、仲良くなりたいなって」
「・・・でも、」
「ダメ?」
「それじゃあ、私も精市くんって呼んでいいかな?」
「うん、名前ちゃん」
名前を呼んだ後に微笑めば、名前ちゃんは赤くなって顔を俯かせた。可愛い。それから、また二人でいろんな話をした。ずっとここに居たいって思えるのは、きっと名前ちゃんだから。
翌朝目が覚めると、名前ちゃんが居なかった。もしかしたら、消えちゃったんじゃないかって思って、急いで小屋を出ようと手を伸ばした瞬間、ゆっくりとドアが開いた。
「あ、おはよう精市くん」
「おはよう」
「どこかに行くの?」
名前ちゃんの手には水の入ったバケツがあって、安心してその場に座り込む。
「精市くん!?」
「・・・ごめん、大丈夫だから」
ホントに大丈夫?と心配してくれる事が嬉しかった。きっと、今日もいつものような生活を送ると思ってたのに。まだ大丈夫だって、信じていたのに。
「・・・精市くん」
「・・・ごめん、もっと話したかったことあるんだけどな」
「ううん、ありがとう。楽しかったよ」
足元から透けていく自分の体が、嫌で仕方がなかった。また、名前ちゃんを一人にするなんて。どんなにここに居たいと願っても、消えていく範囲はスピードを上げていく。
「精市くん、元気でね」
「・・・また、会おうね」
最後に見たのは、名前ちゃんが涙を溜めながら微笑んでいた。
突然の墜落