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目を開けたら、そこは木々が鬱蒼と生い茂る場所だった。こんな場所に来た覚えもないし、誰かにつれてこられたわけではない。

「・・・ここは、」

ぐるりと辺りを見回しても目に入るのは木、木、木。木以外に何も見えやしない。とりあえずこの場所にずっと居ても仕方ないと思ったので、木々の僅かな隙間から見える太陽を目指し歩いた。

恐らくここは、どこかの山の中。緩やかな斜面がずっと続いている。熊にでも遭遇したらどうしようかなんてことを考え始めていたら、先程よりも幾分か明るくなってきた。これからどうしたら良いのか、ちゃんと帰れるのか。一度立ち止まって耳を澄ませれば、小さな音だけど川のような、水が流れる音が聞こえてきた。どれだけ山の中を歩いたかは定かではないが、水を飲む為に川を探す。段々と水音は大きくなって、視界が晴れたところで、川を見つけた。

「・・・飲んでも大丈夫かな・・?」

もし細菌なんかがあったりしたら一大事になりかねない。悶々と悩んでいる時に、背後からパキ、パキと木の枝を踏む音が近づいてきた。勢いよく後ろを振り向けば、そこにはバケツを持った女の子が立っていた。女の子は顔を下に向けていて俺に気づいてないようだが、こんな山の中に人が居るなんて思わなくて、つい後ずされば砂を引きずる音が鳴り、女の子がパッと顔を上げた。

「・・・人、」

「え?」

女の子は目を見開いて驚いた後、どこか悲しそうに軽く俯いた。ここはどこだとか、君は誰とか、聞きたい事はたくさんあるはずなのに、言葉が喉に突っかかり出てこない。そんな俺を見かねたのか、女の子は一度笑い、川の水をバケツに入れた。

「向こうに小屋があるから、そこで話しましょう?」

俺はただ無言で頷くしかなくて。だって、まるで彼女はそこで生活をしているような口ぶりで喋るから。また少し歩けば、そこには小さな山小屋があった。新しくも、古くもないような、不思議な小屋。ギィッと音を立ててドアを開ければ、生活に最低限必要なものが揃っていた。

「そこに座ってて。喉渇いたでしょう?」

「あ、うん」

テーブルがあって、座布団が一枚。きっと彼女の座るものだろうから、その向かい側に座ってもう一度室内を見渡す。入り口のドア以外に3つのドアがある。窓は2つで、流し台にガスコンロまで設置してある。彼女はさっき川で汲んだ水を鍋に移し変えてお湯を沸かしている。数分経った頃に彼女はお盆にコップを2つ載せてやってきた。

「ただのお湯でごめんね」

「いや、・・・ありがとう」

「どういたしまして」

「・・・あの、ここは?」

「私にもわからない」

「君は、「苗字名前」え、」

「私の名前。苗字名前。あなたは?」

「・・・俺は、幸村精市。立海大付属中3年だ」

「そう。あのね、幸村くん」

「?」

「ここからは、自分の意思では出られないの」

「どう、いう・・・?」

「山を降りても無駄、登っても無駄、崖を飛び降りても無駄」

「!?」

「全て試したことよ。でも・・・私以外の人は、ある程度したら消えるわ」

「消えるって・・・」

「もしかしたら帰ったのかもしれないし、あるいは・・・」

彼女、苗字さんの顔は真剣で、それが冗談とか嘘だとかいう事は感じられなかった。ドクドクと心臓が早く脈打つのを深呼吸して落ち着かせ、飲めるくらいに温くなったお湯で喉を潤した。あぁ、これからどうすれば良いのだろうか。



永遠の追放




 

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