拍手お礼 | ナノ

 

いつもより生徒会の仕事が長引いてしまい、部活に行くのが遅くなった。まあちゃんと練習はしているだろうが、部長としてあまり遅刻などはしたくないものだ。鞄などは全て樺地が部室まで運んでいるため、何も持たずに生徒会室を出て部室へ向かう。

「・・・景吾くん」

「アーン?」

「なんとなくだけど、嫌な感じがするの」

名前の横顔を見ればどこか遠いところを見ているような顔をしている。もし、最近俺に悪寒が走ることも勘違いじゃないとすれば、確実に何かが起こるのだろう。かといってそれを特定できるほどのスキルは持ち合わせていないが。

「・・・今日だけは、部活の時間も近くに居て良いかな?」

「構わねぇよ。どうせ名前は俺以外には見えないしな」

「ありがとう、景吾くん」

それはもう嬉しそうな笑顔を向けてくる名前。はっきり言えば普通にそこらの女共よりも断然良い。残念な部分があるとすれば、少しドジなところだろうが許容範囲だ。
少しだけ足早にテニスコートへと向かうが、近づいてきた時にボールのインパクト音は全くなく、聞こえてきたのは悲鳴。ぞくり、と悪寒が走るものの、気が付けば俺はテニスコートまで走っていた。

「どうした!」

「っ、来るな跡部!」

宍戸の今まで聞いた事のないような声が緊迫していることを表している。ピタリと止まった足が、また聞こえた悲鳴で動き出す。テニスコートの見える場所まで走れば、そこにはテニス部員達が逃げ惑う姿があった。どうしたのか、と聞くよりも早く

「跡部危ねぇ!」

「!」

向日の声が聞こえ右側から飛び出してきた何かを咄嗟に身を翻して避ければ、少しだけ間に合わなかったのか右頬が薄っすらと切れ血が垂れる。その何かを目にした瞬間、この頃続いていた悪寒の意味がわかった。

「ッ、なんだよコイツは・・・!」

見たことのない“化け物”。いや、恐らくは人間だったのだろうが、髪の毛が長く顔は見えず四つん這いで獣のようにしている。ゆらり、とそいつが動いて、髪の間からのぞいた目と視線がぶつかった。ヤバイ、と本能的に感じ取ったのにも関わらず俺はその場に硬直して動けなくなった。


 

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