拍手お礼 | ナノ
私が死んだのは、多分ずっとずっと昔。今は私が“生きていた”時を知っている人は誰も居ないし、私も“生きてた”頃の知り合いは誰も居ない。それでも、私は今が楽しいと思える。
「名前?どうかしたのか、アーン?」
「んーん、なんでもなーいよ」
「相変わらず変な奴だな」
「景吾くんには言われたくないし」
「ククッ、それもそうだな」
彼の名は跡部景吾。現在、私が守護霊として護っている人間だ。まあ私からしたらかなり遠い孫みたいな感じなんだろうけど、現在の私の姿は景吾くんと大して変わらない歳に見えるだろう。なぜこの姿なのか私にも良くわからないが、まあ不便はないから特に気にしたことはない。
「今日も学校?」
「当たり前だろう」
「そっかー。生徒会長っていうのも大変なんだねぇ」
「慣れれば楽しいものさ」
フッと優しい笑みを浮かべる景吾くん。
「あ、ネクタイ曲がってる」
「ん?あぁ、悪ぃな」
クイッとネクタイを真っ直ぐに直す景吾くんを見る。私は守護霊といっても幽霊に変わりはないので、物に触ることが出来ない。いや、それは少しだけ語弊があるかもしれない。本当に死ぬ気で力を出せば、触れるらしい。まあ私も詳しくは知らないのだ。なんせ前任の守護霊さんに教えて貰ったわけだから。
「行くぞ、名前」
「あ、はーい」
ドアを閉められたって私は通り抜ける事が出来るのだが、景吾くんはそれをさせてはくれない。どうしてか、なんて知らないけど、とりあえず景吾くんが押さえてくれているドアの隙間からスルリと廊下へ出れば、ゆっくりとドアが閉じられる。
「おはようございます、景吾坊ちゃま」
「あぁ、おはよう」
景吾くんの部屋から少し離れた場所で立っているのは跡部家に代々引き継がれている執事の家系の人。そこそこお年を召されているせいか、物腰柔らかでかなり執事っぽい。因みに、この人も私が見えるらしい。たまに視線が合ったりすると微笑んでくれるが、それに景吾くんは気づいてないので私も軽く会釈をするだけで会話らしい会話をしたことはない。
「今日は遅くなるのですか?」
「あぁ、生徒会の集まりがあるからな」
「さようでございますか」
朝食を取りながら今日の日程を確認するのは毎日の恒例となっている。因みに現在の時刻は朝の5時30分少し過ぎた辺り。なぜこんなに早いのかと言えば、テニス部の朝練があるから。朝っぱらからあんなに激しい運動をするなんて凄すぎる。
景吾くんが朝食を食べ終わったら、残りの身支度を済ませて車で学校へ向かう。私の事は景吾くん以外見える人はほとんどいないため、部屋や確実に二人だとわかる場所でしか話さない。それは昔に、私が決めたこと。
「よぉ、跡部。早いんだな」
「宍戸か。お前も相変わらずだな、アーン?」
学友と会う頃には、私はスッと姿を消す。といっても、景吾くんから少しだけ離れた場所で小鳥さん達と戯れながら景吾くんを見てるだけなのだが。