君はうるさい | ナノ

 

あの後、どうやって家に帰ったのか、何の話をしたのかはいまいち覚えてない。

「・・・だーっ、くそ!」

ガシガシと頭をかいて、教科書の入っていない鞄を手に取って家を出る。うじうじするのなんて俺らしくない、なんて思いながら学校へと歩くが、学校が近づくにつれその足取りは自然と重くなる。

「りーんくーん!」

「おわっ!」

名前を呼ばれたのと同時くらいに、背後からドンッとぶつかられる。前のめりになってこけそうになるのを耐えて、後ろを振り返ればニコニコと笑っている詩歌の姿があった。

「おはよう、燐くん」

「おう、おはよう。つーか、いきなり押すなよ」

「ごめんごめん」

悪びれる様子もなく謝る詩歌に少しだけ安心した。



昨日の事もあったせいか、学校に行けばひそひそと声が聞こえる。教室に入る前にクラスが違うから詩歌とは別れている。遠巻きに見てくる視線が嫌になって、今来たばかりの教室を出た。
行く宛てなんか特に無くて、気が付けばいつもの神社の裏に足を向けていた。蝉の鳴く声が少なくなっていき、もうすぐ夏が終わるんだななんて考えてみる。中学を卒業したら、詩歌とも会えなくなるのかと思うと、ズキンと心臓が痛くなった。

「・・・病気か?」

胸をトントンと叩いてみるが特に変わった事もないので気にせずに横に寝転がる。直ぐに視界はぼんやりとしていき、意識が遠のいた。



「―――、――ん、り、くん・・・燐くんっ!」

「肉!?」

「ぶはっ、肉って・・・!」

もうすぐで肉が食べられるって瞬間に、名前を呼ばれて現実へ引き戻される。近くには俺を起こした詩歌が腹を抱えながら笑っていた。

「どんな夢見てたの?」

「・・・肉、食う夢」

「あはは、燐くんらしいや」

クスクスと笑われて、顔に熱が集中する。うるせぇ、なんて悪態を小さくついてみたらすぐにごめんって謝られた。

「なんでここに居るんだよ」

「燐くんがどっか行ったって聞いたから」

「・・・詩歌、高校行くんだろ?勉強しなくて良いのかよ」

「ちゃんとしてるから大丈夫だもん。・・・私ね、全寮制の学校に行くんだ」

「・・・へぇ、」

「燐くんとも会えなくなるのかなー」

「・・・」

詩歌と会えない。それが全然実感なくて、でもどこか現実味を帯びていて。中学を卒業したらきっと詩歌と会うことなんて滅多になくなるんだ。詩歌と会う前みたいな、生活に戻る。

「・・・寂しい?」

「・・・わかんねぇ」

「そっか。私はね、すごく寂しいな。折角燐くんとお友達になれたのにさ」

「――俺だって、」

「まぁいつまで経っても私たちってば友達だけどね!」

「!!」

「いや?」

「、んなわけねぇだろ!」

「ふふ、良かった」

また、心臓が痛くなったような気がした。



言葉に色をつける特殊技能

(たった一言で、一喜一憂する)


 

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