君はうるさい | ナノ

 

ジリジリと照りつけるような真夏の日差しで、汗がじんわりと滲む。今日も今日とて、いつもサボりに使っている神社の裏手に回れば影が出来ている場所に座り込む。このひんやりとした空気が好きで、安心できるような気がして、何かある度にここに来ている。そして今日もまた、学校で喧嘩をしたばかりだった。

「・・・ハァ、」

帰ったら怒られるな、なんて思いながらぼんやりと上を見上げる。木々の間から見える空は青く澄んでいて、先程まで苛立っていた気持ちがスーッと引いていく。何も考えずに空を見上げていた。

「なーにしてるの?」

「っ、うわっ!」

俺と空の間に横から突如割り込んできた奴。驚いて立ち上がり相手を見れば、同じ中学の制服を着た女子。ドクドクと早まる心臓をどうしようかと考えた時に、彼女が口を開く。

「燐くんだよね?雪男くんのお兄さんの!」

「・・・だからなんだよ」

雪男の名前が出た途端に、頭の中は冷静になったような気がした。

「えへへ、私ね、燐くんとお友達になりたいの」

「・・・は?」

「だから、お友達になりたい!ダメかな?」

「え、あ・・・、だって俺、」

「詩歌!」

「へ?」

「私の名前。詩歌って呼んでほしいな」

にこりと笑う彼女・・・詩歌の言葉がグルグルと頭の中を巡る。今まで“友達”なんて居なくて、居たとしても直ぐに離れて行って、もう誰もそんな事を言ってくる奴なんて居ないと思ってたから。心臓の脈打つ速さが少しだけ速くなる。

「燐くん、私とお友達になってください」

「・・・・・・おう」

ぼそりと聞こえないくらいの声で返事をすれば、詩歌は太陽のように笑った。ほんのりと心が温かくなったような、そんな気分。

「燐くん、私の名前呼んでよ」

「・・・」

「燐くーん」

「・・・詩歌」

「ん?聞こえないなー」

「っ、詩歌!」

誰かの名前を呼ぶのなんて、ましてや女子の名前なんて呼んだことなくて。俺が詩歌の名前を呼べば、満足したようににんまりと笑った。



耳を塞げども効果はなく

(孤独な世界に、さようなら)



 

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