賽は投げられた | ナノ

 

寺を探しながら歩いているが、次第にお腹が減ってくる。今はまだお腹の虫が鳴らないが、いつまで持つか。

「あ、そうだ!」

こんな時の為に魔法円の書かれた紙を持ってきたんじゃないか。ごそごそとポケットの中から探し出して、ちょっとグシャグシャだけど・・・大丈夫だろう。右手の親指を自分の八重歯に軽く刺し、紙に血をつける。

「田中さん、カモーン!」

ボフン、と音と煙が出て、中から中型犬ぐらいの犬が現れた。ぎゅっと抱きつくと相変わらずもふもふで気持ちがいい。一応私の使い魔の狛犬で、名前は田中さん。

「“何の御用ですか?”」

「あー、えっと、寺探して欲しいの。ここ」

「“・・・迷子になったんですか?”」

「ゔ・・・迷子じゃないもん」

「“・・・仕方ないですねぇ”」

ペラリと母の描いた地図を見せる。ぶっちゃけ犬に地図見せる絵面ってシュールだと思うんだよね。

「田中さん、分かる?」

「“・・・恐らく、ですが”」

「やった!」

一度周りをキョロキョロとしたあと、田中さんが歩き出したので私も歩き始める。田中さんは狛犬の中でも一番大人っていうか、要領が分かってるというか。現に今だって私が普通に歩けるスピードで歩いてくれているし。

「田中さん、最高」

「“なんですか、いきなり”」

「べっつにー」

歩いていると次第に車や人が通る道になって、渡ろうとした信号が赤になったから近くのブロックに腰掛けた。だって疲れた。

「“全く・・・迷子にならないでくださいよ”」

「迷子じゃないし」

「“・・・ハァ”」

「溜め息つくと幸せ逃げちゃうぞー」

「“・・・誰のせいですか”」

「さぁ?」



迷子じゃないもん
(ただ土地勘が無かっただけ)



 

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