賽は投げられた | ナノ
今日は誰にも告げんと寺まで行って、経典をこっそり借りてきた。家に帰るまで待てんくて、ぼそぼそと小声で経典を読みながら歩いていると、向かい側の歩道の方から、声が聞こえた。
「少年ー!」
「・・・?」
ここら辺は人通りも少ないから、もしかしたら自分かもと思って振り向けば、そこには同い年くらいの少女が立っていた。なんや、と叫ぶ前に少女が少し焦ったようにしゃがんで!と叫んできて。
「・・・(なんや、コイツ)」
意味が分からないまま、とりあえずしゃがんでみれば、そいつは両手を合わせて、拳銃を現させた。ますます意味が分からなくて混乱しそうなところに、そいつは俺の方に銃口を向けた。
「ッ!」
あまりの展開に目を見開けば、少女はためらいも無く引き金を引いた。
・・・が、銃弾は俺の方へ飛んでくる前に“何か”に当たって消えた。
「ふぅ、」
「ななな、何がふぅ、や!」
心臓がドックンドックンと過去最大級の音を立てているんじゃないかと思うほど、それは強烈だった。
「ん?」
「お、おまっ、人になに銃向けとんねん!」
少女は何も悪びれた様子も無く、そして俺の話をまともに聞いている風にも見えなかった。それでも、今さっき何が起こったのかが知りたくて、でも言葉が上手く出てこなくて、知らず知らずの内に睨んでいると、少女の視線が持っていた経典に行った。
「ははーん、それ音読してたのか」
「・・・悪いんか」
「悪魔に狙われたいなら勝手にすれば?」
「、は?」
「んじゃー」
「ーーっ、」
少女は手を振って、俺が何か言う前に歩いて行ってしまった。しかも、
「・・・悪魔に、狙われとった・・?」
ぐるぐると思考が進まないまま、その場に突っ立っていた。
「坊ー!」
ハッとして少女が歩いて行った反対方向を見れば、志摩と子猫丸が走ってくるのが見える。
「・・・志摩、子猫丸」
「坊?どうかしはったんですか?」
「・・・いや、なんでもあらへん」
「・・・変な坊やなー」
志摩が笑って、横で子猫丸が止めようとしているのが視界に入る。だけど、今はそんな事よりもさっきの事が衝撃過ぎて。きっと一生忘れる事は無いだろう。
少女に助けられる
(心臓が落ちつかへん)