賽は投げられた | ナノ

 

自室へと向かい、着替えを取って浴場へと行く。果たしてあの3人が仲良く入浴してるのかも怪しいところではあるが、少し重くなる足取りを気にしないようにする。

「あー、めんどくさい」

まあ私の実家が田舎すぎて小学校のみんな友達みたいな感覚だったからなのかもしれないけど、友好関係で躓くとは思ってもなかった。浴場へと向かうために階段に差し掛かったところで、強烈な腐敗臭に襲われる。

「なっ!?」

この臭いは、屍系の臭い。まさかこの寮に出てくるはずのないものが、なぜここに居るのか。思わず立ち止まってしまったが、もし本当に屍系の悪魔が居るのだとしたらみんなが危険だ。すぐに駆け出そうとしたら、背後から腕を掴まれた。

「っ!ヒューイ!」

「わー、ストップストップ!」

「!」

バッと後ろを振り向けば、窓からの月明かりで浮かび上がるこの場に似合わないピンク色。

「・・・メフィスト」

「いやぁ、驚きましたよ!」

「っ、なんで、ここに・・・!」

「その事について少しお話があるんです」

笑みを絶やさず、更にはウインクまでしてきたメフィストに苛立ちを覚えるものの、すぐに鼻につく嫌な臭い。

「悪魔っ」

「ゆいさん、大丈夫ですよ。奥村先生が行きました」

「雪男くんが?」

「ええ、そうです」

それなら安心だ。ホッとしたのも束の間、私はメフィストに腕を引かれ転びそうになりながら使われていない一室に入れられる。電気もつけずに、ゆっくりとドアが閉められる。それから私の方へ振り向いたメフィストに一瞬息が詰まる。そこにはいつものような笑みがなく、ただ私を見ているからで。

「・・・なんの用?」

「・・・」

「・・・メフィスト?」

問いかけても名前を呼んでも返事がなくて、どうして良いのかわからず柄にもなく焦る。一体どうしたんだ。そんな私を見て、メフィストは笑い出した。

「・・・は?」

「いやぁ、すみません。つい面白くて!」

「・・・」

「あ、ちゃんと大事な話もあるんですよ☆」

「・・・」

どうしてやろうか。無性に腹立たしい。しかもそれすらも解っている様に、どうどう、なんて言ってくるもんだから更にイライラする。

「で?話ってなに」

「今回の合宿の件なんですが、実は候補生認定試験も兼ねてましてね。犬神憑きのゆいさんには悪魔の事は隠し通せないでしょう?ですから、」

要約すると、どうやら私にあまり手を出して欲しくないらしい。まあ考えてみればそうかもしれない。昔から訓練もしてきたわけで、私が勝てない悪魔なんてそうそう現れないだろう。ヒューイも居るし。

「・・・わかりました。でも、みんなが本当に危険なら手を出しても問題ないですよね」

「ええ、それはもちろん。では、私はこれで」

アインス、ツヴァイ、ドライ、と唱えてメフィストは姿を消した。というか、別に雪男くんから伝えてくれたら良かったのに。



闇夜に浮かぶピンク
(・・・ゆい、)(あ、ヒューイ。ごめん大丈夫だったわ)(・・・あまり気を抜くでないぞ)(・・・わかってるよ)


 

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