賽は投げられた | ナノ

 

カツカツと床に描かれていく魔法円を見ながら、ふと思った。ネイガウス先生に従ってる悪魔ってどんなのだろう。多分実践で役に立つ悪魔なんだろうが、できることなら可愛いの希望。いや、ネイガウス先生が猫又(ケット・シー)とか鬼(ゴブリン)とか出したら笑っちゃいそうだけども。

「これから悪魔を召喚する」

静かに響いたネイガウス先生の言葉に、臭くない悪魔でありますように、と願った。が、しかしネイガウス先生の呼びかけに応じ出てきたのはきっと高村家とは相性最悪であろう屍(グール)系、屍番犬(ナベリウス)だった。

「っ、――ッ!!」

あまりの強烈な悪魔の臭いに思わず胃袋から逆流してきたモノが出そうになったが、気力で持ちこたえる。こんな場所で吐いて醜態晒したくない・・・!思いっきり鼻を摘んで、できるだけ息をしないように耐える。ひたすら耐える。ネイガウス先生が何かを説明しているが、できることならこの屍番犬を戻してからにしてほしい。

「高村、見本を見せてやれ」

「っ、・・・は、い」

始まりのときに貰った簡単な魔法円が描かれた紙に、八重歯に少しだけ親指を刺して血を出す。紙に血をつける。因みにこの作業、全部片手でやってます。鼻押さえてないと私死んじゃうよ。

「えっと、サクラちゃん、カモーン」

私のゆっるい声と同時に紙から煙が出て、現れたのは小さい犬。きゅるるんとした目がなんとも言えない。流石、私の手持ちの中のアイドル。

「キャンキャン!(ゆい!久しぶりね!)」

「うん、久しぶりだねサクラちゃん。・・・大丈夫?」

「くぅん?(なにが?)」

「・・・臭い、とか」

「・・・!!キャゥン!(臭い!なにこの臭い!)」

「あ、やっぱり。ごめんね、帰っていいよ」

私が許可を出すとすぐさま煙と共に消えた。薄情な奴め・・・!しかしサクラちゃんだから許せちゃう不思議!

「流石は高村の娘だな」

「はは、それはどうも」

どうしてネイガウス先生は私がこんなにも鼻を押さえてるのに屍番犬をいつまでも出しているのだろうか。・・・もしかして先生私の事嫌いとか?え、私何もしてないよ!

「“稲荷神に恐み恐み白す。為す所の願いとして成就せずと言うことなし!”」

「おお!なんだアレ、スゲー!」

「白狐を二体も・・・見事だ神木出雲」

次第に涙で歪んできた視界を目一杯開けば、出雲ちゃんの足元に白狐が見える。おお、出雲ちゃんすげー!一気に二体も呼べるとか!思わず出雲ちゃんの方ばかりに気をとられていたら、なにやらしえみちゃんも悪魔を召喚したらしい。

「それは緑男(グリーンマン)の幼生だな。素晴らしいぞ杜山しえみ」

おお!しえみちゃんもすごい!でも残念なことに涙目の私には緑男がどこに居るのか見えないよ。どれだけ涙が目に溜まってるんだ私・・・!そしてネイガウス先生早く戻してよ!
私の願いがやっと伝わったのか、先生は屍番犬を戻して、なんか説明を始めた。だけど私の耳には何も入ってこなかった。



相性最悪なんです
(ゆい!?なんでそんな涙目なん!?)(ちょ、廉造落ち着いて。もう大丈夫だから)


 

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