賽は投げられた | ナノ

 

机に一人で座りながら教室の中を見渡す。うん、私ってば大体の人と話せてるんじゃない?まあ、未だにパペットくんとフードくんとは喋った事ないというか、二人が喋ってる瞬間を見たことがない。

「高村さん、聞いていますか?」

「!あ、すみません」

「・・・ちゃんと聞いてくださいね」

「はい」

現在、悪魔薬学の授業中である。そして雪男くんの笑みが怖いよ。カッカッと黒板に板書していく雪男くんも最初の頃に比べると先生が様になってきている気がする。まあ、最初と言ってもまだそれほど時間が経ったわけじゃないんだけども。
相変わらず授業中に船をこぐ燐くんは雪男くんからもの凄くグチグチ言われている(寮でも)。この間仲良くなったと思った竜士も、やっぱり授業中の燐くんの態度はいただけないらしい。まあ、最初の頃よりかは大分マシになったけどね。

カリカリと板書されているのをノートに写し取っていれば、授業終了のチャイムが鳴り響いた。

「今日の授業はこれまでですね。少しだけ話がありますので、そのまま聞いてください」

パタンと教科書とノートを閉じながら雪男くんの方を見れば、数枚の紙を取り出していた。

「夏休みまでそろそろ1ヶ月半切りましたが、夏休み前には今年度の候補生(エクスワイア)認定試験があります」

そういえば、あと1ヶ月ちょいで夏休みに入るのか。なんて頭の隅で考えつつも雪男くんの話に耳を傾ければ、燐くんがしえみちゃんに「エクスワイヤ?」なんて言って訂正されている。

「・・・そこで来週から1週間、試験のための強化合宿を行います」

しえみちゃんから回ってきたプリントを後ろのフードくんに渡しながら見れば、どうやら合宿の参加の件と希望する称号(マイスター)のことを書くようになっていた。合宿か・・・参加しないといけないのかな。ぶっちゃけ候補生の試験くらい余裕じゃないかな、なんて思ってるんだけど。
紙とにらめっこをしていたら、燐くんと子猫丸たちの声が聞こえてきた。なるほど、燐くんに称号の説明をしてあげているのか。流石子猫丸、優しいな。隣では竜士が不貞腐れているけれども。それでもまあ、聞こえてくる声は楽しそうなのに変わりない。

「うーん、竜騎士だけで良いかな」

手騎士の素質といっても、狛犬の召喚は“血”の契約というか、犬神の使いのようなものだし。とりあえず竜騎士を確実に取らなければ私はきっと一生家に入れてもらえないだろうし。
ちゃちゃっと書き上げて今提出するか迷っていたら、しえみちゃんが紙とにらめっこをしているのが目に入る。

「しえみちゃん」

「え、あ、ゆいちゃん・・・!」

ビクッと肩を揺らしてからしえみちゃんは私を見た。あれ、私ってそんなに怖い存在なの?いや、多分驚かせてしまっただけなんだろう。そう思わないと私心が折れちゃうよ。

「迷ってるの?」

「あ、・・・うん」

「そっかー。まあこれからの未来が掛かってくるもんね」

「・・・ゆいちゃんは、決めたの?」

「私は、決めたっていうよりも、決まってたの方がしっくりくるかな」

「へ、へー、そうなんだ!なににしたの?」

「竜騎士だよ」

「そっか・・・」

「ま、たくさん悩めば良いと思うよ。私でよければ相談にも乗るし」

にこっと笑いかければ、しえみちゃんも笑ってくれる。うん、少しずつで良いからしえみちゃんとも仲良くなれるように頑張ろう。

「ゆいー!お前はどれにするんだ!?」

「あー、はいはい。落ち着いて燐くん、うるさいから」

「なあなあ!どれにするんだ!?」

ガクガクと肩を揺すられながらも、楽しそうな、嬉しそうな燐くんを止める術を、私は知らない。



なににする?
(私は竜騎士だよ。燐くんは?)(俺は騎士!)


 

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