賽は投げられた | ナノ
朝、ふとトイレに行きたくて起き、部屋を出てトイレを済ませる。何も考えずにトイレから出て、そして後悔するのだ。
「な、なななっ、なんでゆいがここに居るんだ!?」
「・・・あー、おはよう燐くん」
「おう、おはよ。・・・じゃなくて!」
バッタリとトイレの前で出会ってしまったのはまだ私がこの寮に住んでいると知らなかった燐くん。くそう、なんでこんな日に燐くんが早く起きているんだ。
「兄さん?どうかした?」
「ゆゆゆ雪男!」
「あ、おはよう雪男くん」
笑顔で朝の挨拶をすれば、雪男くんは今の現状を理解したのか少しだけ口元が引きつった。それから一つだけ溜め息を吐き出し「兄さん、落ち着いて」と燐くんを宥め始めた。
「なんでゆいが!?」
「・・・今からそれを説明するから落ち着けよ」
若干苛立ち始めた雪男くんの雰囲気を感じ取ったのか、燐くんも「お、おう」とどもりながら返事をした。立ち話もあれなので三人で食堂へ向かう事が、隣を歩いている燐くんがチラチラと私を見てきたのは言うまでもない。
私の真正面に座る燐くんと、その横に座る雪男くん。こういう場合って普通事情知ってる雪男くんは私の隣に座るべきなんじゃないか、とかいう突っ込みは諦めた。だって雪男くん目が笑ってないような気がするから。
「んー、何を話せば良いんだろ」
「全部話せよ」
「・・・そうだねぇ。私の家・・・高村家は代々“犬神憑き”なの」
「犬神憑き?なんだそれ」
「まあ、犬神憑きについては追々話すとして。私は普通の人より身体能力が優れてるんだ」
「?」
「例えば、足が速かったり嗅覚が敏感だったり、そんな感じのこと。だから、人があまり居ないこの寮に住まわせてもらってるんだ」
「・・・ふーん」
燐くん絶対理解してないな。今だって頭上にははてなマークが飛んでるよ。雪男くんに助けを求めれば、にっこりと笑顔で返された。ちくしょう、私でどうにかしろってか。
「まあ、とりあえずこれからよろしくね?」
「おう!よろしくな、ゆい!」
頭上に飛ばしていたはてなマークが消え、ニカッと笑った燐くんに少しだけ将来が不安になった。
もう少し考えようよ
(雪男くん、燐くんって考えるの苦手?)(かなりね)(・・・やっぱり)