賽は投げられた | ナノ
あの後授業が終わるまでに椿先生は帰ってこず、塾の授業も体育が最後だったためみんなすぐに帰っていく。まあ私も現在、帰ってる最中です。燐くんの数メートル後ろを歩きながら。別に一緒の寮ってのがバレても私は気にしないんだけどさ。燐くんから視線を外し、ゆっくりと暗くなる空を見上げた瞬間。
「ッ!」
急に襲ってくる悪魔の臭い。下級の悪魔ならこんなに強い臭いを発しない。
「ヒューイ!」
「分かっておる」
名前を呼べばすぐに具現化して現れたヒューイの背中に乗って、臭いの元へと急ぐ。だってこんなに強い臭いの悪魔なんて、危険すぎる。しかし、近づくにつれて別の臭いも混ざり始める。どうして、としか言えないその臭いの元に辿り着けば、すでに臭いの元は一つになっていた。
「・・・どういうわけ、メフィスト」
「おやおや、どうかしましたか?」
「とぼけないでよ。ここに居た悪魔、なに?」
夜の闇に浮かぶピンク色は、ニヤリと口を歪める。
「あれはアマイモン。少々用事がありましてな」
「・・・何をするつもり」
「さあ?」
はぐらかすように、何も知らないというように、メフィストは両肩をあげる。これだから、メフィストは嫌いなんだ。
「誰かを傷つけたら、許さないよ」
「ほお・・・それは気をつけないといけませんね」
「・・・」
「さあ、夜になりますよ。帰りましょうか、ゆいさん」
笑顔を見せたかと思ったら、メフィストは「アインス、ツヴァイ、ドライ」と唱えて姿を消した。建設中の鉄骨の上には、私とヒューイだけが残された。
「ねえヒューイ」
「なんじゃ」
「・・・メフィストは、何がしたいんだろうね」
「・・・さぁの。とりあえず帰るぞ」
「はーい」
トンッと鉄骨から飛び下りるヒューイの上に乗りながら、街の方を見れば、明かりが綺麗だった。
なぞナゾ謎
(何を考えているのか、わからない)