賽は投げられた | ナノ

 

昨日、燐くんが山魅(デックアルプ)を倒して寮に帰るのを見届けてから、私も寮に帰り残っていたダンボールの箱を片付けた。そして今日、祓魔塾があるからこうやって来たわけなのだけれども。

「ゆい!俺の隣に座りますやろ?」

「馬鹿ね、私たちと一緒が良いってわからないわけ?」

バチバチと私の目の前で火花を散らすのは廉造と出雲ちゃんで、その周囲には困り顔をした子猫丸と朔子ちゃん、呆れ顔をした竜士が居る。どうしてこんな事になったのか、なんて私が一番聞きたいくらいである。

「だから、ゆいは俺のやって言うてますやろ!」

「ゆいだって私と一緒に居たいって思ってるわよ!」

口論はヒートアップしていくばかりで、誰も止めない。どうしよう、今もしかしたら人生最大のモテ期かもしれない。なんて少しだけ現実逃避をしてみたり。

「何してんだ?」

「あ、燐くん」

丁度教室の入口のところで立ち止まっていた私たちを不審に思ったのは今来た救世主、燐くん。もう何でもいいからこの二人が気を逸らせればそれで十分だ。思ったとおり、廉造と出雲ちゃんは燐くんの突然の出現で燐くんの方へ視線を向けている。そしてすぐに出雲ちゃんは朔子ちゃんと一緒に席に向かい、廉造も竜士の後について席に着いた。

「ありがとう燐くん、助かったよ」

「?俺別に何もしてねーけど」

本当に不思議がっている燐くんだったが、首を傾げながらも席へと行った。私もどこに座ろうかと思案した結果、誰とも座らずに一人で座る事にする。だってまた変な騒動を起こされたくないし。鞄を机の上にドサリと置いて席に座れば、案の定廉造と出雲ちゃんからの視線が痛かった。へらりと笑ってみるものの、それで何かが変わるわけでもなく、結局雪男くんが教室に来るまでそれが続いた。

「皆さん、こちらは新しい塾生の杜山しえみさんです」

「よ・・・よろしくお願いします」

雪男くんの横に立つ彼女は昨日燐くんが助けた子のようで、はにかみながら燐くんの隣へと腰掛ける。驚いている燐くんを他所に杜山さんは楽しそう、に見える。二人は小声で話しているんだろうが、生憎人より聴力の良い私には丸聞こえなわけで。なんとなく微笑ましく思う。

「それに・・・雪ちゃんの先生姿も見たかったから・・・!」

「・・・」

「ぶふっ」

杜山さんの一言で押し黙る燐くんには悪いが、思わず噴出して笑ってしまう。ドンマイ、燐くん。私が笑ったのには気づかれなかったのが運が良かった。その後も悪魔薬学の授業が続き、今日もまた宿題が出される。授業が終わればぞろぞろと帰ろうとするみんなを視界に入れながら、私も席を立とうとして影が出来ているのに気づく。

「あ、あの・・・!」

「杜山さん?」

「よ、ゆい」

「あ、燐くんも。どうしたの?」

「ほら、しえみ」

「う・・・あ、あの・・・わっ、私と友達になってください!」

顔を真っ赤にさせまるで一世一代の告白のように、右手を突き出して頭を下げる杜山さん。隣の燐くんは爆笑中である。えっと、どういう状況?教室内には私たち3人以外は居らず、ただ燐くんの笑い声がBGMになっている。

「えっと、杜山・・・しえみちゃん?」

「!」

「私なんかで良かったら、友達になろう?」

「う、うんっ!」

パァアアと花が咲き誇るかのように笑ったしえみちゃん。可愛いなぁ、なんて思っていたら燐くんがしえみちゃんの頭を撫でながら、良かったな、なんて言って笑っている。うん、最初は何事かとビックリしたけどね。

「あ、あの・・・」

「ん?なに?」

「名前、聞いても良い?」

「あ。ごめんごめん、私は高村ゆい。改めて、よろしくね。しえみちゃん」

「わ、私こそよろしくね!・・・ゆいちゃん」

名前を呼ぶときに恥ずかしがるしえみちゃん。そんなことされたらこっちまで恥ずかしがるなぁと思いながら、私たちは帰ることにした。



新しい塾生
(あ、しえみちゃん危ない!)(きゃっ)(ぶはっ、しえみ、お前何してんだよ!)(もう燐笑わないでよ!)(・・・賑やかになるなぁ)

 

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