賽は投げられた | ナノ

 

昨日は正十字学園の入学式と、祓魔塾の初日だった。今日は、土曜日で学校は休み、祓魔塾も片付けとか色々と忙しいだろうからってことで毎年この日は休みらしい。私も部屋に置かれたダンボールの封を外して片付けていたら、携帯が鳴る。

「もしもし」

『あ、ゆい?今から家に帰ってこれる?』

「今から?」

チラッと時計を見れば午前11時20分を少し過ぎた辺り。まあどうせ部屋の片付けなんて適当にやって生活している内に片付いていくものだと思うし、何より母の申し出を断ったらどうなるのかなんて昔から身を持って知っているため断れない。

「わかった、すぐ行く」

『じゃあ待ってるわね』

ツーツー、と虚しくなる携帯を切る。用件も何も言われなかったが、特に何かをやらかしたということはないはず。またお使いとかかなぁ、なんてぼんやりと考えながら一応雪男くんにメールを送っておく。

From:雪男くん
Sub:無題
―――――――
用事が出来たので出かけてくるね!
燐くんの事は頼みます。
―END―

我ながら素っ気無いが気にしない。メールを送ってから1分も経たない内に携帯が鳴る。開けば新着メールの文字。メールを見れば雪男くんからで、分かりました。気をつけてくださいね。との返事だった。それにしても早すぎやしないか。

「あ、やっべもう5分経ってる・・・!」

急いで部屋の鍵穴に自分の家へと通じる鍵をさして家へと入る。途端に臭うのは、あの嫌いな人物の臭い。グッと眉間にしわが寄ったのは仕方がないことだと思う。

「あら、おかえりー」

「ただいま、お母さん」

「お帰りなさい、ゆいさん!」

「・・・なんでいるの」

「おやおや、これは手厳しいですなぁ」

飄々とした態度で、さも当たり前かのように登場したメフィストを一睨みすれば、肩を竦ませる。なぜここにメフィストがいるのか、なぜ私がここに呼ばれたのか。出来ればなるべく早く説明してほしいのだが、母の「ご飯にしましょうか」に何も言えなくなった。
お昼は昨日の朝食振りの母の手料理。特に何か祝い事があるわけでもなさそうな、いつも通りのお昼。ナチュラルに隣に座ってくるメフィストにイラッとしつつも両親が居るせいで文句ばっかり言ってられないから黙々とご飯を食べ、片づけまで終わりようやく話すタイミングが出来た。

「お母さん、なんで今日呼んだの?」

「あぁ、実はねゆいにやってもらうことがあるの」

「・・・私に?」

座っていたお母さんが立ち上がり、戸棚の上に置いてあった小さな木箱を持ってくる。こんなの見たことない。何が入っているんだろうと少しだけわくわくとしながら開けられた箱の中身は

「・・・、勾玉?」

「そう。勾玉のネックレスよ」

少しだけ黒味を帯びた赤の勾玉が、中央に置かれている。わけもわからず両親を見れば「ヒューイも呼んで」と言われる。ますます意味がわからなくなるが、両親に逆らう事なんて自殺行為に等しい真似はしない。

「ヒューイ」

「・・・なに用じゃ」

「じゃあ、これから犬神憑きの儀式を始めるわね」

「・・・え?」

さらりと笑顔でとても重要な事を言った気がするのだが、気のせいだろうか。心なしかヒューイも呆気に取られている。一体なにが始まるのかと思っていれば、小箱に入ったままの勾玉を私の方へ差し出される。

「ゆいの血を、垂らして」

「・・・はい?」

「だから、血よ」

「あ、うん」

「ヒューイもね」

「うむ」

当たり前のように淡々と進めていくお母さんに従う。人差し指を普通の人より尖っている犬歯に当て少し力を入れればぷすっと皮が破けぷっくりと血の玉が出来る。それをゆっくりと勾玉に落とせば、先程より勾玉の色が赤くなった気がした。次いでヒューイも血を垂らせば、勾玉は完璧に赤く染まった。

「はい、これでお終い」

「え?」

「これをつけてる時は今までよりも犬神の力を受けなくなるはずよ。まあそれに慣れたら自分の意思で制御も出来るらしいけど」

「え、こんなのあったの?」

「そうなのよ。ごめんなさいね、探すのに手間取って。何しろヒューイみたいに強い犬神が憑くことって滅多にないから」

「・・・ありがとう」

「いいのよ、それくらい。くれぐれも気をつけなさいね」

「うん!」

ポンポンと優しく叩かれた頭。思わずふにゃりと笑ったら、視界の隅にピンクが映った。



なぜここに居るのか
(ゆいさんの儀式ですからね)(いや、関係ないでしょ)(私が楽しみにしてたから大アリです)(・・・はぁ)

 

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