賽は投げられた | ナノ

 

ふわふわと意識が飛び始めようとした頃、やっと入学式が始まった。まあ時間的に言えば私が座って5分も経ってないと思うけどね。長々と喋るのは学園長らしく、メフィストとは違ってなんとも真面目そうな人だった。というか、真面目すぎる。話が真面目すぎて眠い。うつらうつらと揺れる頭を必死に元の位置に戻し、寝ないように頑張る。

「・・・大丈夫か?」

「へ?あ、大丈夫っス」

隣に座っていた名前も顔も知らない男子から心配されてしまった。なんてこった。私が小声で答えると同時ぐらいに、クソ長い学園長の話が終わった。ふぅ、と一息吐いて頭を軽く横に振る。

「新入生代表――奥村雪男」

「はいっ」

眠気に負けて下がり気味だった目が一瞬にして開いた。それはもう今まで無いくらいに。だって、雪男くんだよ?え、まじで?スタスタと壇上まで上がって、紙を見ながら話し出す。同い年とは思えないくらいしっかりしている。

「はー、すっごいなぁ、雪男くんは」

「なに、お前知り合い?」

「あ、まあ・・・そうかも」

「へー。新入生代表って入試トップなんだろ?」

「え、そうなの?」

「らしいぜー」

なぁ?と私と反対方向に座っていた男子に話しかける隣の男子。てか雪男くん凄すぎて笑えないよ・・・!一体その勉強する時間はどこにあったの・・・!新入生の抱負を語る雪男くんには悪いが、ぶっちゃけ内容が頭に入ってこない。とりあえず後で褒めちぎろう。

入学式が終われば今日は解散らしく、周りでは同じ中学から来た女の子同士が今日どこ行く?なんて会話を繰り広げている。どうせ私と同じ地域から来た人なんて居ませんよ・・・!みんな仲良く同じ高校に行くんだろうなぁ。そんな物思いに耽っていると、視界の隅に雪男くんを発見。近くに燐くんも居たから声をかけようと思ったら3人の女の子に取り囲まれた雪男くん。

「わぁ、モテモテ」

独り言を呟いて、燐くんの方へ視線を移せばすでに姿が無かった。あれ、おかしいな。とりあえず雪男くんが話し終わるのを待っとこうかな。

「ねぇ、1人で何してるの?」

「はぁ?」

肩をポンポンと叩かれてなれなれしく聞いてきたのは見知らぬ男子。誰だコイツ。思わず眉間にしわが寄ってしまったが致し方ない。

「今日暇?今からカラオケ行くんだけどどう?」

「いや、今日は・・っていうかこれからもずっと用事があるから」

「何それ、面白いね」

ニヤニヤと下品な笑い方をする男子に思わず鳥肌が立った。ていうか、もしかしてこれナンパとかされてる?うわー、こんな田舎娘に目をつけるなんて目が腐ってるんじゃない?

「ささ、こっちこっち」

「え、あ、ちょ・・・っ!」

右腕を取られてスタスタと歩き始める。どうしようかと真剣に考え始めた時だった。

「何をしてるんですか」

「雪男、くん」

「ハッ、新入生代表かよ」

今まで見たことの無いような怒った表情をしている。呆然としていたら、雪男くんと目が合って苦笑気味な笑顔を向けられた。が、次の瞬間には私の手を掴んでいた男子の手を捻りあげていた。

「いっててててて!離せよ!」

「・・・これに懲りたらもうしないことですね」

ニコリと笑った雪男くんの背後には吹雪が吹いているような錯覚があった。



ナンパに御用心
(ゆいさんも気をつけて下さいね)(・・・以後気をつけます)

 

- ナノ -