賽は投げられた | ナノ

 

車に乗り込み動き出したが、誰一人として口を開こうとしない。というか、雪男くんに至っては何か真剣な顔をして紙を見ていた。私も携帯を制服のポケットに押し込み、ぼんやりと窓の外を見た。

「3人とも、学園が見えてきました」

雪男くんが何か彼に話しかけていたが、すぐにメフィストの言葉が発せられ窓の外を見る。私が今まで暮らしてきた田舎とは打って変わって、建物が所狭しと建てられている。少しだけ、空気が悪そうだなと思った。

「ようこそ、正十字学園へ」

してやったり顔のメフィストがなんかムカつく。学園の前に着くとメフィストからこの後すぐに入学式が始まると伝えられ、私と雪男くんが降り、まだ制服に着替えてなかった彼は降りようとしていたところをメフィストに引っ張られ再度車内へ。

「・・・彼が、」

「うん。僕の兄さんで、」

「そっか」

雪男くんが言い切る前に言葉を遮れば、少しだけ苦笑いをしていた。これから、また大変になるんだろうなーなんて、人事のように考えていた。

「チッ」

「兄さん、貴重品以外あっちのクロークに預けられるみたいだ。ゆいさんはどうしますか?」

「うーん・・・」

このまま一人で行こうかどうしようかと考えていたら、視線を感じた。言わずもがな、雪男くんのお兄さんである。

「あ、高村ゆいです」

「・・・奥村燐だ」

「燐くんかー。よろしくね」

「おう・・・つーか雪男とどういう関係だよ?」

「兄さん、早く行かないと時間が無いよ」

「あ、じゃあ私は先に行っとくね」

「うん、また」

燐くんは雪男くんのあとについていくように歩き始めた。途中、後ろを振り返ってきて目が合ったので笑って手を振ったら、ビクッと肩を揺らして勢いよく前を向いてしまった。そんなに私の顔は酷かっただろうか。

「・・・さて、どうしたものか」

燐くん自体は悪いモノに見えないけど、とりあえず要注意だよね。人の流れに逆らうことなく進んでいけば大講堂に着いて“入学式”と書かれた紙を貰う。講堂の中は広くて、先程貰った紙からクラス一覧を見て確認する。

「おっ、ラッキー」

私の席は一番端っこ。つまり寝ててもたいしてばれないだろうっていう。席に着けばふかふかのイスで、思わず顔が緩む。あー、まじで寝そうだわ。



夢心地につき
(ねーむーいー)


 

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