賽は投げられた | ナノ
「それじゃあ、行ってきます」
「気をつけてね、ゆい」
「大丈夫だよ」
家の玄関前で、私と両親は立っていた。なぜって、今日が正十字学園の入学式があるからだ。鍵を使って祓魔師の日本支部へ行く事になっている。というか、メフィストに無理矢理伝えられてただけなのだが。そして、玄関に鍵を突き刺した状態で家を背にするように両親に振り返った状況だ。何も知らない人が見ればなんとも不思議な場面だろう。
「ゆい、何事も気を抜くなよ」
「わかってるってば。・・・じゃあ、」
玄関のドアを開ければそこには日本支部の中に繋がっていて、鍵も忘れずに取る。中に入りドアを閉めれば、かなり田舎だった私の家から一瞬で都会だ。まったく便利なものである。
「お待ちしておりましたよ、ゆいさん」
突如現れたメフィストの姿と、嗅ぎなれてしまって嫌になる臭い。しかも祓魔師がたくさん居るのか、他からも悪魔の臭いがしてくるような気がする。自然と眉間にしわが寄ればメフィストにデコピンをされた。
「女性がそのような表情をするのはいただけませんね」
「・・・」
ニコリと笑ったメフィストに私は苛立つ。因みに私の現在の服装は制服で、手荷物などは一切無い。だって全て“収納”してるから。超便利。
「それでは、行きましょうか」
「・・・どこに?」
「奥村兄弟を迎えにですよ」
ウィンクを飛ばしながらメフィストが言った。奥村兄弟・・・雪男くんと、魔神の落胤・・・私が見張るべき相手。雪男くんと兄弟だから似てるのかな?いや、でも正反対かもしれないし・・・まぁ今はそんなに強い臭いがしないから普段は平気なのかな?いや、でも悪魔の血を引いてるし・・・。悶々と考えながらメフィストの後ろを歩けば、ピンクのリムジンが見えた。
「・・・ねぇ、」
「なんでしょうか」
「もしかしてあの気色悪いピンクのリムジン?」
「気色悪いって・・・!酷い!特注のメフィストピンクなのに!」
「ごめん間違った、メフィストの頭が残念だったんだね」
「ぐすっ・・・まあ良いです。乗ってください」
「え、いや」
だ、と言う前に先に乗ったメフィストにグイッと引っ張られ無理矢理乗り込む。内装もまっピンクだったらどうしようかと思ったが案外普通らしい。外装だけが残念。私たちが乗り込むと同時に車が動き出した。
「おっと、私は先に行っておきますね」
「は?」
「アインス、ツヴァイ、ドライ」
パチンと指を鳴らして、メフィストはリムジンから姿を消した。
もうどうにでもなれ
(雪男くん元気かなー)