賽は投げられた | ナノ
正十字学園は全寮制ということで、急いで必要なものを鞄に詰め込んでいく。獅郎さんの葬儀には参加できないらしく、数日後に祓魔師で集まりお墓参りへ行くらしい。私もそれに同行させてもらう予定だ。
「・・・獅郎さん、」
先程まで忙しなく動かしていた手がピタリと止まり、どうしようもなく遣る瀬無い気分になった。獅郎さんが亡くなったなんて未だに理解できない。でも、あの時感じた臭いはずっと遠くから、だけど確かにここまで臭いが届くほどに強力だったのだ。これ以上何もする気になれなくて、私はベッドへと倒れこんだ。沈む意識の中、獅郎さんが少し眉を下げて笑っていたような気がした。
「ゆいー?行くわよー」
「はーい」
私はなるべく黒い服を身に着けて、両親は祓魔師の格好をして、鍵穴に鍵を挿す。車や電車で行くのは遠すぎるから、正十字騎士團の日本支部へと繋がる鍵だ。ガチャリと鍵を回してドアを開ければ、そこには制服姿の兄が居た。近くに住んでいる祓魔師の人の車に乗り込んで獅郎さんが眠っているお墓に向かう。
「・・・雪男くん?」
お墓について車を降りれば、大勢の祓魔師の人たちと、雪男くんの姿があった。雪男くんは私に気づくと、周りの祓魔師の人に会釈をしてから小走りで駆け寄ってきた。
「ゆいさん・・・」
少しだけ、ほんの少しだけど、以前会った時より痩せているような気がした。何を話したら良いのかもわからなくて、とりあえず獅郎さんの墓前へと案内された。お墓にはしっかりと“Fujimoto Shirou”と刻んであって、本当に獅郎さんはここに眠っているんだと実感した。
「・・・どうしてかな、父さんが死んだのに、涙が出ないんだ」
「っ、」
ぽつりと呟いた雪男くんに、私は何も返せなかった。ただ、私も呆然と立ち尽くすだけで、時間が過ぎていく。どれくらい時間が経ったのか、小雨が降り出して手がみるみる内に冷えていく。少しだけ手を動かせば隣に居た雪男くんの手に当たって、知らず知らずに手を握っていた。
「雪男くん、」
「なぁに、ゆいさん」
「一人で、無理しちゃ嫌だよ?」
「・・・うん」
「私も、頑張るから」
「・・うん、」
「だから、」
「わかってるよ」
雪男くんの空いた手が頬に伸びて、親指で涙を掬うように動かされる。小雨が降っていて、泣いてるかなんて自分でもわからないのに、雪男くんはただ優しく涙を掬った。繋いだ手に、少しずつ温もりが戻ってきたような気がした。
一人じゃないよ
(私も、背負うから)