賽は投げられた | ナノ

 

鍵を使って出てきたのは、薄暗い路地裏。獅郎さんが近くに居た人に話しかけてるのを横目で見ながら、鼻から空気を思いっきり吸う。微かに風の中から臭う悪魔のにおい。獅郎さんの合図なしに動くわけにもいかないので待っていたら、少し離れた場所から小走りで神父(とう)さんと呼びながら獅郎さんに話しかける人が居た。

「おー、雪男」

「もうみんな集まりました」

「そうかそうか」

「・・・あっちの人は?」

チラリと見られて、目が合う。あの人が獅郎さんの言っていた“雪男”くんか。獅郎さんに手招きをされて近寄っていけば、ほんの微かだけど雪男くんの眉間にしわが寄った気がする。

「ゆいちゃんだ!」

「高村ゆいです。どうも」

「、奥村雪男です」

お互い軽い会釈をしてから、話すこともなく沈黙が続いた。そんな二人を見て獅郎さんが溜め息を吐いたが、初対面の人となにを話せというんだ。しかも雪男くんってば未だに眉間にしわ寄ってるんですけど。

「まぁ、良いか。ゆいちゃん悪魔がどこに居るかわかるか?」

「私じゃわからないのでヒューイ呼びます」

「助かる」

「ヒューイ、カモーン」

それだけ言うと、私の体から煙のような靄が現れて、少し離れた場所で形を形成していく。ほんの数秒のうちに煙は狼のような形になる。うん、相変わらずかっこいいわ。近くで雪男くんが息を飲むのが聞こえた。

「これは・・・」

「犬神だよ」

「犬神って、」

呆然とヒューイを見ている雪男くんを横目にヒューイに近づけば、あからさまにめんどくさそうな雰囲気を醸し出していた。私だってめんどいんだから!

「こんな朝っぱらから何の用じゃ」

「喋った・・・!」

ヒューイが喋るなんて思わなかったのか、雪男くんから驚きの声が上がった。うん、犬神クラスになると普通に人語喋るんだよね、狛犬と違って。

「悪魔を探して欲しいの。わかるでしょ?」

「フン、当たり前じゃ」

「じゃあ案内役お願いね。私じゃなんとなくしかわからないから」

「・・・帰ったらたらふく飯を食うぞ」

「はいはい」

と言うわけで、交渉成立。まぁ交渉とかぶっちゃけ意味ないようなもんだけど、とりあえず聞いておかなくちゃね。ぞろぞろと集まってきた祓魔師の人たちにこれが案内してくれますと伝えれば、ヒューイから前足で殴られた。これって言うなだって。まぁ、私も悪かったけど殴る事ないじゃん!


犬神様
(崇め奉れ、我こそ犬神)(はいはい、さっさと行くよ)(・・・)

 

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